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連載 ”日の丸ヤミ金”奨学金 第16回
「トンデモ判決」の内幕とは?

三宅勝久・ジャーナリスト|2023年5月31日5:11PM

「Aさん事件」は和解決着

 さて、連載第15回で報告した札幌高裁の奇妙な判決(冨田一彦裁判長)だが、その後の調査で興味深い事実が判明した。続報に先立って事件の概略を振り返っておきたい。

 支援機構の前身「日本育英会」時代の利用者だったAさんは、支援機構から約400万円の弁済を求める裁判を起こされた。そのうち約200万円は期限未到来分、つまり分割払いの予定だったのを繰り上げて一括請求されたもので、この部分がAさんには納得がいかなかった。一括請求の根拠規程は日本育英会法施行令6条3項だ。「支払能力があるにもかかわらず」著しく延滞した場合にのみ認められる旨定めている。日本学生支援機構法施行令5条5項と同じ内容である。Aさんに200万円を一度に払う資力はない。もとより、支援機構は支払能力を調べることすらしていない。

「一括請求は施行令違反である」とAさんは反論した。

 この訴えに対して支援機構は次の主張を行なった。一括請求の根拠は施行令ではなく、日本育英会の業務方法書なのだ。業務方法書にも一括請求に関する条文がある。ただそこには「支払能力」の文言がない。だから支払能力不問で一括請求できる――という理屈だ。

 施行令も業務方法書も日本育英会法が根拠だ。前者は政令、後者は省令に従って作成されている。同じ法令の中で一括請求の要件が異なるのは不自然である。荒唐無稽な主張だと思っていたところ、支援機構が「証拠」として出してきたのが札幌高裁「冨田判決」だ。そこにこんな記述がある。

〈一審原告支援機構は、事案に応じ、上記条項(施行令か業務方法書=筆者注)のいずれかを選択し、一括請求の根拠とすることができると解される〉

 にわかに理解しがたい判決にAさんは驚いた――。

 なお、Aさんの裁判は、Aさんが少額の分割払いをする形で和解が成立した。一括請求には納得できなかったが、返還期限が到来している延滞部分があったため現実的な解決を選んだ。一括請求をめぐる争いが和解協議でAさんに有利に働いたのは間違いない。

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