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連載 ”日の丸ヤミ金”奨学金 第14回
唐突に結審、「指令書」公開訴訟

三宅勝久・ジャーナリスト|2023年5月29日4:47PM

不可解な「不開示」理由

日本学生支援機構は裁判の準備書面で「一括請求は機構法に違反せず」と主張。(撮影/三宅勝久)

 

本来なら黒塗り部分にどういう性質の情報があるのか、審理の中で相当程度判明するはずだった。情報公開訴訟では非開示情報に該当することの立証責任は行政や法人側にある。だが、市原裁判長の手抜き裁判によってわからずじまいになりそうだ。

 それでも裁判をしなければ知り得ない事実はある。被告・支援機構の主張の根拠薄弱ぶりである。「法的処理実施計画」に記載されている情報とは次のようなもの(要旨)だそうだ。

〈「法的処理」の対象となる延滞者の属性・類型・見込件数・実施時期。個人情報は含まれていない〉

「法的処理」とは具体的に(1)支払督促予告申立書の発送(2)支払督促申し立て(3)仮執行宣言つき支払督促申し立て(4)強制執行、だという。そして不開示にした理由をこう説明する。

〈本来、被告(支援機構)の『争訟』の相手方当事者になるべき者が、法的処理の対象となることを事前に知ることとなり、法的手続を回避するため(訴状等の送達ができないように)一時的に身を隠すこと、資産を秘匿すること及び(法的処理の対象から外れる程度の返還を行う等)延滞状況を継続すること等の事態を招くことは容易に予想される。このような事態は、被告の債権回収の実効性を著しく低下させ、次世代の奨学金原資の確保に支障をきたすこととなり、奨学金貸与事業の健全性及び持続性を阻害する事態を招く(後略)〉(被告準備書面より)

 よって独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「独法情報公開法」)5条4号ニが定める「独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」がある情報に該当する、という言い分だ。

 これに対して原告は次のように反論した。

①不開示にした対象文書はすでに過年度のものであり、また経済難で払えない人が大半とみられる。支払督促申立予告をはじめとする一連の手続きの「計画」を明らかにしても、債務者が財産を隠すなどの影響が生じるおそれはない。

②逐条解説によれば、独法情報公開法5条4号ニの「おそれ」は漠然としたおそれでは不十分だ。法的保護を要する蓋然性が必要である。被告のいう「おそれ」は漠然としたものにすぎず、不開示情報ではない。

③支援機構は施行令を無視した繰り上げ一括請求など違法な回収を行なっており、黒塗り部分にはそれに関する記載がある。開示によって仮に回収業務に何らかの支障があったとしても、開示することによって得られる公益が優越する。

 特に詳しく論じたのが③だ。問題の黒塗り文書に「支払督促予告申立書」の発送に関する情報があることを支援機構は訴訟の中で認めた。これは繰り上げ一括請求(期限の利益喪失)を意味する。日本学生支援機構施行令5条5項は、一括請求が可能なのは債務者が「支払能力」を有している場合であると明確に定めるが、支援機構はこれを無視した回収を行なっている。「支払督促予告申立書」の発送は、その違法回収の第一段階の行為にあたる。黒塗りを開示しなければ違法行為を助長することになる。

 右の主張を裏付ける証拠として、情報公開請求で入手した「支払督促申立予告」や同封している「重要 必ずお読みください!」と赤色で書かれた文書を提出。国会質問の記録も証拠で出した。

 被告・支援機構は、口頭弁論の数日前になって反論の準備書面を送ってきたが、内容は抽象論のくり返しだ。

〈債権回収業務は毎年度反復して行われるものであるから、過年度であっても、複数年度の債権回収にかかる方針及びその方針に沿った対応が公にされれば、将来の回収業務の遂行において上記おそれが生じることは明らかである〉

〈原告は、長期延滞者の延滞理由でもっとも多いのが経済的困窮であることを理由に、上記おそれが生じることは考えにくいとも主張するが、延滞理由と上記おそれの有無は無関係であり、失当である〉

〈原告は、被告の一括請求が施行令5条5項に違反しているなどと縷々主張しているが、かかる主張は、本件文書の記載内容と一切関係がない。そもそも、一括請求は機構法に違反したものではなく、原告の主張は失当というほかない〉

 裏付けの書証や事実は何一つ示さない。筆者は再反論によって論破するつもりでいたところ、市原裁判長に阻まれてしまった。

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