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徴用工問題 韓国政府解決策では新たな法的争点が加わり、長い目でみれば日韓関係を悪化させる  

山本 晴太|2023年5月18日7:00AM

 3月6日、韓国政府は外交部長官談話で「強制徴用大法院判決関連の解決案」を発表した。

 韓国政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が「民間の自発的な寄与など」を通じて財源を調達し、大法院(最高裁)判決で勝訴が確定した原告と今後確定する原告を対象に、判決で認められた賠償金と遅延損害金相当額を支払うというものである。(上の図参照)

 被告である加害企業(現在のところ三菱重工業と日本製鉄)の債務を第三者である財団が代わりに弁済すると、財団は加害企業に対する請求権(求償権)を取得することになる。しかし、尹錫悦大統領は求償権を行使する意思はないと表明した。

 つまり、判決で確定した加害企業の損害賠償債務を財団がすべて肩代わりするというのだ。日本政府は「歴代内閣の立場を引き継ぐ」などと述べるにとどまり、新たな歩み寄りをすることはなかったが、尹大統領は同月16日に訪日して岸田文雄首相と会談し、日韓関係の「正常化」を宣言した。

傲慢な日本政府と非常識な加害企業


 最近の日韓両国の対立は強制動員被害者に対する賠償を加害企業に命じた2018年の韓国大法院判決に端を発している。

 小学校卒業前後に女子勤労挺身隊として軍需工場に動員されたり、10代後半で製鉄所に徴用されたりした強制動員被害者が数十年をかけて日韓の裁判所で闘った末に得た判決だ。多くの企業が国境を越えて事業を展開している今日では、企業が外国の裁判所で賠償を命じられることは日常茶飯事である。日本製鉄も敗訴が確定すれば支払いをすると株主総会で表明したことがある。

 しかし日本政府は駐韓日本大使館で「説明会」を開くなどして加害企業に判決不履行をそそのかし、加害企業は支払能力が十分にあるにもかかわらず確定判決の履行を拒否した。日本政府は韓国に対して半導体素材の輸出規制などを行ない、強制執行により現金化が行なわれれば日韓関係は破綻するなどと脅してきた。

 他国での事業で利益を得ながら、その国の裁判所の判断を無視して確定判決の履行を拒否するなど、法治国家の企業としてのコンプライアンスのかけらもない非常識な行動である。まして、被害者個人と私企業の間の訴訟の結果に介入して他国の司法機関の判決の不履行をそそのかす日本政府は余りにも傲慢で理不尽である。

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