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生活保護費引き下げ取り消し訴訟、初の二審で原告敗訴 大阪高裁“逆転判決”の不可解

三宅勝久・ジャーナリスト|2023年5月2日7:00AM

違法の基準こっそり変更

 一審の大阪地裁はこのからくりを見破り、判決でこう指摘した。「生活扶助相当CPIの下落率が消費者物価指数のそれよりも著しく大きくなった要因としては、被保護者世帯においては一般的世帯よりも支出の割合が相当低いことがうかがわれる教養娯楽に属する品目についての物価下落の影響が増幅されたこと(略)が重要であるものと考えられる」

「最低限度の生活の具体化という観点からみて、その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある」

 データ捏造、改竄というべき不正があったと断定したに等しい。他の地裁判決もこれに続いたが、これらの判断を今回の大阪高裁は次のようにばっさり切り捨てた。

「統計数値の精度や信頼性も勘案した上で、生活保護受給世帯の消費構造を考慮するかどうか、考慮するとしてどの程度考慮するかは、専門技術的知見に基づく厚生労働大臣の裁量に委ねられている」

 生活保護基準部会に諮らなかった点は、制度的に義務づけられていないことを理由に一蹴した。

 中でも原告弁護団が問題視するのは、裁量権逸脱が認められるのは「確立した専門的知見」との矛盾がある場合だ――とした部分だ。従来の判例が拠って立つ「専門的知見」という表現に「確立した」の一言を付け加えることで、逸脱の有無を判定するハードルをこっそり引き上げた。大臣に間違いなし。こちらが恥ずかしくなるような「厚労省バンザイ判決」だ。

 せめて十分な情報公開がされているなら多少の格好もつくだろうが、厚労省の秘密ぶりは絶望的だ。3月16日、名古屋高裁で進行中の控訴審の証人尋問に現れた西尾穂高・保護課課長補佐(引き下げ当時)は「意思形成過程にかかわる事項の証言は大臣の承認が得られていない」と証言拒否を繰り返し、傍聴席の失笑を買った。

 疑惑の密室行政に風穴を開けようとする者と蓋をしようとする者との戦いが、各地の裁判所をも巻き込む形で激しさを増している。

(『週刊金曜日』2023年4月28日号)

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