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博報堂の雑誌『広告』がジャニーズ関連記述を一部削除

岩本太郎・編集部|2023年4月29日6:23AM

3月31日号の同誌540ページに掲載された対談記事末尾の断り書き。
『広告』Twitterアカウント。

なお残る業界の「悪しき慣習」

 ジャニーズ事務所創業者の故・ジャニー喜多川氏による性被害の問題に関心が集まる中、大手広告会社の博報堂が発行している雑誌『広告』においてジャニーズ関連の記述が一部削除に追い込まれた件が話題を呼んでいる。

 この記事は『広告』の3月31日発売号に掲載された「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」。社会学者の田島悠来氏と批評家の矢野利裕氏による20ページ余の対談記事である。

 その中で矢野氏がジャニーズの在り方に言及した〈囲い込み、独占するようなコントロールをマスメディアに対して影響力を持ってやってきて……。いまの時代はとくに、メディアの独占的なコントロールやハラスメントなどはその問題性を追及されるべきところだと思います〉との記述が原稿段階までは残っていたのに完成した誌面では削除され、代わって対談記事の末尾部分に、〈本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています〉との文言が掲載されたのだ。

 この一件は同号発売日の31日、矢野氏が自身の「note」記事(※1)で前記の削除部分も引用しながら紹介したことで表面化。これを受け同誌編集長の小野直紀氏も4月4日に同誌の「note」記事(※2)で削除の件を事実と認めたうえで、編集責任者として広報室長に削除要求の拒否および抗議をしたものの適わず、協議の末、上記の文言を記事末尾に掲載するに至った経緯を(同社広報室にも許可を取ったうえで)紹介。

 謝罪とともに〈博報堂の悪しき慣習に加担していることを自覚したうえで、博報堂の善い部分が強化され、悪い部分が浄化されることを心から願います〉と述べた。なお筆者の取材に同社広報室は〈記事の内容や編集上の判断、経緯につきましては、守秘義務等もございますので、当社からは差し控えさせていただきます〉と回答した。

依然根強い忖度文化

 前記「note」投稿によれば、対談は昨年12月1日に行なわれ、同22日には完成した原稿を広報室に送付。今年1月24日に広報室長より削除要求があった。3月18日・19日には英BBCがジャニー喜多川氏による性加害を扱ったドキュメンタリー番組を放送したが、『ジャニーズと日本』(講談社)の著者である矢野氏はBBCの取材に協力し、前記した削除部分のような内容を話したという。

『広告』は博報堂の広報誌(編集長の小野氏も同社社員)だが市販もされ、1948年の創刊以来、広告に限らず多様なテーマを扱う雑誌として広告業界内外で評価されている。ネットでは今回の削除を批判する声も多いが、他方「広告会社発行の雑誌でそうした忖度があるのは当たり前」との指摘もある。小野氏に対しても「社員の立場でよくやった」との賛意の一方「会社を他人事のように非難している」といった批判も見られる。

 博報堂広報室も「この件にかぎらず、配慮が必要と判断した原稿に関しては、編集長と相談の上、修正の必要性などの判断を広報室長としておこなっています」と回答(ちなみに小野氏は従前からの予定通り、同号限りで『広告』の編集長を退任している)。

 ただ、小野氏が言う「博報堂の悪しき慣習」は同社だけにとどまるものでもないようだ。たとえば博報堂出身の作家・本間龍氏は2012年に『電通と原発報道』を上梓する直前、当時の博報堂広報室長が「本の内容をチェックさせてほしい」「元社員の著者が本書で情報漏洩していないか」と版元の亜紀書房に連絡してきたと証言。これに抗議する文書を同社広報室に送ったが回答はなかったと自身のブログで公表している(※3)。筆者はこの件も同社広報室に質問したが「当時のことがわかる者がおらず、事実確認をすることができません」との返答だった。

 旧来型マスメディアと、それを支えたジャニーズ、広告会社との三位一体型ビジネスが盤石だった時代の業界慣行が、今や白日の下に晒され、世間からも厳しく批判されるようになった時代をよく表す事例だろう。

※1 https://note.com/yanotoshihiro/n/n120b05eeb49a
※2 https://note.kohkoku.jp/n/n1c49de418dff
※3 https://hommaryu62.hatenablog.com/entry/20120616/1339853682

(『週刊金曜日』2023年4月28日号)

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