強まるトランスジェンダー女性への攻撃 「女湯に侵入」というデマ
本田雅和・編集部|2023年4月4日5:09AM
性的少数者の中でレズビアンやゲイ、バイセクシャルとも違い、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人々への誹謗中傷や攻撃が、近年強まっている。特に「身体が男性である人が『心は女』と主張して女湯や女性トイレに侵入してくる」など、トランスジェンダー女性を性犯罪者のように排斥する言説が主にインターネット上で広がり、当事者を苦しめている。
3月16日にはトランスジェンダー当事者や専門家が東京都内で記者会見を開催。性的少数者への理解を進め、差別をなくすための法整備の気運が高まる一方でこうしたデマ言説が蔓延する原因を分析し、偏見を排して「冷静な法的整理を踏まえた議論」を訴える声明を発表した。
出生時に「男性」を割り当てられ、高校卒業時から「見た目で区別できるようにメイクや身なりで少しずつ性別移行を始めた」というトランスジェンダー女性の時枝穂さんは、さまざまな理由から「手術をしておらず身体と戸籍は男性のまま」と吐露。「仕事もなかなか見つからず、見た目と戸籍が合わないことで苦しんできた。外出も怖く、安心して使えるトイレを探すのも大変。生きていていいのかと悩んだ時期もあった。私は公衆浴場の女湯に入ろうなどと思ったこともない」と話した。
米国などでは「同性婚」が認められていく中で、バックラッシュ(巻き返し)として宗教右派や政治的保守派による攻撃のターゲットが、より社会的に脆弱なトランスジェンダーへと移行してきた。日本でも、お茶の水女子大学が戸籍を変更していないトランスジェンダー学生の入学受け入れを発表した2018年頃から、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)上で「女性が危険にさらされる」などの言説が流され始めた。
このような経緯と現状を説明したトランスジェンダー女性の野宮亜紀さんは「所詮SNS上のことなどと思わないでほしい」と述べ、偏見に基づく差別が「トランス排除の動きや政策」につながっていくことに警鐘を鳴らした。
立石結夏弁護士は現状を法的に整理して解説した。公衆浴場における衛生等管理要領では、身体の特徴に基づく性別ごとのゾーニング(区分け)はトランスジェンダーの利用者にも適用され、現在検討されている性的少数者への理解増進法や差別禁止法が成立しても、「対応に何ら変更はない」と明言。「そもそも公衆浴場は利用者全員が裸になるという特殊な状況であり、トイレのような他の男女別施設では、利用者が自認する性別で判断していくのが国際的潮流だ」と説いた。