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「死んだ方が楽かなって」 LGBTQの人々が岸田首相に面会して伝えたかったこと

本田雅和・編集部|2023年3月8日7:00AM

性的少数者の当事者と支援者関連団体の代表と首相官邸で面談した岸田首相(左から5人目)。(首相官邸のホームページから)

 同性どうしの結婚の法制化問題を巡り、岸田文雄首相が国会答弁で「社会が変わってしまう」と述べ、首相秘書官だった荒井勝喜氏が「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」などと記者団に発言したことが発覚し、更迭された。「差別の根深さ」を批判する声が広がり、岸田首相は2月17日、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)など性的少数者の当事者・支援者関連団体の代表らと官邸で初面談、元秘書官の差別発言に関しては「心からおわびしたい」と陳謝したが、性的マイノリティへの偏見を取り除く差別禁止法の整備には言及しなかった。

 差別発言から3日後の2月6日に政府は、性的少数者から直接意見を聞く機会を「できるだけ速やかに設ける」としていた。小倉将信・共生社会担当相や女性活躍担当の森雅子首相補佐官が同席した。

 面会したのは一般社団法人LGBT法連合会の藤井ひろみ代表理事、プライドハウス東京コンソーシアムの松中権代表、プライドハウス東京レガシーユーススタッフの山島凛佳さんほか、認定NPO法人ReBitの計3団体の関係者6人。30分の予定が大幅超過で50分となったが、官邸側の要請で冒頭以外は非公開だった。

 同日夜の「緊急報告会」での出席者らの説明では、岸田首相が冒頭、差別発言については「あってはならないこと」と謝罪。その後、松中さんが岸田首相の「社会が変わってしまう」発言がショックだったとして真意を質したが、首相は「法律、制度が変わる。議論していく必要があるという意味だった」などと釈明したという。

 松中さんは、プライドハウスで取り組む「いのちの相談窓口」での自殺防止活動やそこでの当事者の声などを伝えたうえで①性的少数者のための法制定、②全国各地での居場所の確保、③当事者かもしれない人も含めてすべての若者が平等に性の多様性について学べる学校現場の教育環境の整備――を訴えた。「プライドハウスに協力する民間企業ではすでにそうした取り組みを進めており、国でもやってほしい」とも要望した。

「20歳の当事者」として山島さんは「繰り返される差別発言のニュースを独りベッドの上で読んでいると死んだ方が楽かな、と何度も感じた。そんな思いをしたことがありますか?」と岸田首相らに問いかけた。

「デジタルネイティブ世代の私たちは世論や企業が私たちに肯定的な意見を発信していることも、法整備にようやく大きなうねりができてきたことも知っている。なのにいまだに『慎重な議論を検討する』とか、あまりにも私たちの感覚とはかけ離れている永田町の厚くて暴力的な壁に、悔しくて涙が止まらなかった」と述べた。

「差別を許さない」という文言を避けようとしたり、「理解増進法という生ぬるいもの」で済まそうとしたりして、「私たちの家族のあり方や人生のあり方を否定しようとしている」とも指摘。「私は(岸田首相らに会うのが)すごく怖かった。あなた方は私や私の大切な人たちを傷つけているからです。このヒアリングを単なるパフォーマンスにしないでほしい」と「微かな希望」も付け加えた。

 藤井さんは「差別で命を絶った人も含めてたくさんの仲間に支えられて今ここにいるが、この国で私たちは蔑まれているという現実がある」とし、「差別を禁止するということを国は明確に打ち出してほしい。いま議論されている理解増進法案では、たとえ成立しても国際社会からも評価されない」と述べた。ReBitの代表も法制の必要性を強調した。

 岸田首相も「当事者がさまざまな困難に向きあっていることは分かった」。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「現行の理解増進法案では国際基準はおろか『最初の一歩』となる指標を満たすこともできない。差別禁止規定が必要だ。総理との面会がパフォーマンスかどうかは今後の政府の動きにかかっている。私たちは首相の動きを厳しく注視している」と語る。

(『週刊金曜日』2023年3月3日号)

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