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「高齢者の集団自決」ということばに既視感

2023年2月3日6:38AM

「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかと……」

 新年そうそう、イェール大学助教授・成田悠輔氏の1年前の発言がSNS(ネット交流サービス)上で大きな批判を集めた。

 世代交代に触れた流れのものらしいが、高齢者をお荷物扱いするような言説に「またか」と既視感を覚えたのは私だけではないだろう。

 思えば4年前には古市憲寿氏と落合陽一氏の『文學界』での対談が批判を浴びた。財政破綻の問題などと絡め、高齢者の延命治療や医療費自費負担の問題に触れた対談内容について、「優生思想に繋がる」という声が多く上がったのだ。

 成田氏の発言がネット上で批判を浴びるのを見ながら、昨年12月に報道されたあることを思い出していた。

 それは北海道の「あすなろ福祉会」が運営する知的障害者施設で、利用する男女が結婚や同居を望んだ場合、パイプカット手術や避妊リング装着などを提示されていたこと。これまでに利用者ら8組が応じていたという。

 これらが始まったのは1996年頃。96年と言えば、障害者への強制不妊手術の根拠となった旧優生保護法が改正され、優生手術が禁じられた時期である。その符合に、頭を抱えたくなった。

 昨年10月、強制不妊手術をされた人たちが集う集会に参加した。旧優生保護法が存在した48年から96年の間、実に2万5000人以上が手術を受けさせられている。

 16歳で何も知らないまま手術を受けさせられた女性は、結婚後、夫に去られたことを話してくれた。結婚式直前に手術をされたという女性もいた。また、やはり手術をされた男性は「元の体に戻してほしい」と声を震わせた。

 旧優生保護法には「不良な子孫の出生を防止する」という言葉がある。

 それは「あなたは劣っているから、未来永劫、子どもを作ってはいけない」ということだ。

 その言い分は「障害者は不幸を作ることしかできません」と19人を殺害した相模原事件の植松聖死刑囚の思考と、根本的にどこが違うのだろう。

「集団自決」という言葉に、いろんなことを思い出し、暗澹たる気持ちに襲われた。

(『週刊金曜日』2023年1月27日号)

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