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原発回帰のどたばた説明会に驚きと怒り

佐藤和雄・「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2023年1月29日7:00AM

「特技は『人の話をよく聞く』ということだ」。

 自民党総裁選のころはそう言っていた岸田文雄首相だが、もはやそんな言葉を信じている有権者はさほど多くないだろう。その不信に拍車をかける出来事が起きている。経済産業省資源エネルギー庁が、公式サイトで突如発表した「『GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針』についての全国説明・意見交換会」が、驚きと怒りの声を呼んでいるのだ。

経済産業省資源エネルギー庁の公式サイトに掲載された「『GX実現に向けた基本方針』についての全国説明・意見交換会情報」で示している「日程と申込先について」。1月20日午後4時の時点で、すでに終わったものも含め、3カ所しか概要が固まっていなかった。

「全国説明・意見交換会」とは簡単に言えば、岸田文雄政権が昨年12月22日のGX実行会議で決定した原発回帰政策の内容を説明し、参加者から意見を聞こうというものだ。しかし、申し込みの募集開始から締め切り・開催までの期間があまりに短いなど、エネルギー政策に関心のある市民らから「本当に意見を聞く気があるのか」といった批判があがっている。

 説明・意見交換会は、下の表の通り全国にある経済産業省の地方支分部局10カ所で開催される。問題なのは、その告知と申し込み期間の短さだ。たとえば、関東経済産業局の主催で1月20日開催予定の説明会の概要と申し込みについて、同局が公式サイトに掲載したのは、1月13日午後4時ごろ。申し込み期限は19日午後5時なのでわずか6日間しかない。

 さらに言えば、定員は会場参加が先着50人、オンラインでの参加が先着100人。筆者が説明会の開催を知った1月18日午後にはオンライン参加は「申し込みは上限に達しました」との表示が出ており、申し込みはできなかった。

「準備を始めたのは年明けから」

 どうして、こんなことになったのか。

 説明・意見交換会を主催する、ある地方の経済産業局幹部に聞くと、「準備を始めたのは年明けからです」と、内情を打ち明けてくれた。つまり、昨年12月下旬の「原発回帰政策」決定のころには全国での説明・意見交換会をやる予定などなく、ドタバタでの準備となったようだ。

 民間の研究者らでつくる原子力市民委員会(座長・大島堅一龍谷大学政策学部教授)はこの問題で1月18日、改めて政府を批判する声明を発出した。

 声明では「(政府の原発回帰政策の)内容上の問題に加え、今回批判の対象になっているのは国民に丁寧に説明せず、国民参加の場をつくらない岸田政権のやり方である」と述べたうえで、(1)福島原発事故後の原子力政策を根本から変えるものであるにもかかわらず、岸田首相は、国民に対して原子力政策転換の内容や理由を説明していない。(2)国の審議会でも、原子力産業の利害関係者や原子力開発推進論者が委員の大多数を占める一方、原発事故被害者は参加の機会を与えられず、政策の問題点を述べた少数の委員の意見は完全に無視され、基本方針にも反映されていない。(3)意見公募(パブリックコメント)期間が短すぎる。年末年始を含めて30日間に限定され、国民には考える時間がほとんど与えられていない――といった問題点を指摘している。

 国際環境NGO「 FoE Japan」 事務局長の満田夏花さんは「順番が違う。わずか数カ月で、原発産業の代弁者が圧倒的多数を占める審議会で内容を決めてしまってからの説明会。批判をかわす上でのアリバイ作りにすぎない。本当に国民の声をきくのならば、まずは各地での説明会や討論会をつみかさねてから、政策を決めるべきだろう」と憤りを露わにしている。

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