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多田謡子反権力人権賞 ミンスイさんと女性2団体に

西村仁美・ルポライター|2022年12月28日4:06AM


「第34回多田謡子反権力人権賞」受賞発表会が12月17日に東京都内で開かれた。少数者の人権擁護に尽力するも29歳で夭折した多田謡子弁護士の遺志を将来に生かそうと創設された基金をもとに、権力と闘い、人権擁護に尽くした団体や個人の功績を称え、賞金とともに受けてもらうものだ。

 今年は21団体・個人の自薦・他薦候補者の中から1個人2団体が受賞した。個人では、独裁政権から逃れて来日後、初の在日ミャンマー(ビルマ)人のための労働組合に加入して、その生活と権利擁護や民主化運動に取り組んだミンスイさんが受賞。団体では、なおも続く男社会の下で女性の妊娠や中絶が国家管理されている状況を変えるための活動を行なっている「SOSHIREN 女(わたし)のからだから」と、沖縄県の石垣島で2016年の陸上自衛隊配備の説明会時から反対し、島内でスタンディングによる抗議活動を行なうべく、戦争体験者や戦後の開拓移民世代の女性らが集まった「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」が受賞した。

12月17日の受賞発表会。「オバーの会」山里節子さんは石垣島からオンラインで思いを語った。(撮影/西村仁美)

 冒頭、主催者の多田謡子反権力人権基金運営委員会で事務局長を務める久下格さんはあいさつで、前日に岸田内閣が安保関連3文書を閣議決定したことに言及。専守防衛から軍拡路線へ向かう日本の防衛政策の大転換期の最中に「賞を差し上げるべき人たちに受けていただけたと思う」と語った。

 続いて受賞者による講演が行なわれた。ミンスイさんは、受賞を喜ぶ一方、21年の軍事クーデター以降、民主主義を求める市民らを独裁政権が殺害、弾圧している状況に触れ、「私たちは勝手に変わった政権は受け入れられない」「日本では安倍(晋三元首相)が暴力で亡くなり『暴力は受け入れない』と言う。だったら2500人もの市民が軍部に殺されたミャンマーの状況を見て、国軍を支持できるのか」と鋭く問いかけた。

 今年が結成40年の節目となった「SOSHIREN」はメンバーの3人が入れ替わりながら登壇。

産めよ増やせよという「富国強兵」の時代に作られた刑法の堕胎罪が今も存在するほか、差別的な内容の優生保護法が母体保護法に改められた現在も、女性の身体が国家管理下に置かれている現状を説明しながら訴えた。メンバーの一人、岩崎眞美子さんは「国家は自分たちより弱い者のことを勝手に決める。家庭でも家の中のことはお父さんが全部勝手に決める。小さく低いところから見ていく中でも、そういう構造があると感じます」と語り、誰の中にもある権力志向性に意識的であることだけでも、現状を変えていく力になり得るのではないかとの思いを述べた。

戦争という言葉がない島

「オバーたちの会」は、代表として石垣島から来場した内原節子さん以外は会場と石垣島をつなぐオンラインで参加。スクリーンの大画面に代表の山里節子さんと、その自宅に集ったメンバーの姿が映し出された。冒頭の約20分間は無音声のカラー映像を山里さんの解説付きで上映。1955~56年ごろの石垣島の自然や人々の素朴な暮らしを伝える貴重な記録で、その強烈なメッセージ性に会場の参加者らは画面を食い入るように見つめていた。

 山里さんは上映後、石垣島について「モノやカネがなくても緑豊かな、心豊かに暮らせる島だったと思うんです」と語ったうえで、「私たちの島には『戦争』『戦』に当たる言葉がないのです。戦争なんかせずに、みんな幸せに暮らしていけるんだということを悠久の昔から肌で感じながら生き続けてきたのが、私たちの先代だったと思うんです。これを誇りとしていつまでも持ち続け、次の世代にも、次の次の世代にも残していきたいと思っております」と、会場に向かって語りかけた。

 後半は「オバーの会」による「とぅばらーま」など八重山諸島の代表的な民謡が披露され、会場はすっかり八重山色に染まった。女性団体が二つも受賞するという快挙に、今の社会の中で明るい兆しを見るような思いがした。

(『週刊金曜日』2022年12月23日号)

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