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神戸市「神出病院」患者虐待で7団体が兵庫県に要請

吉田明彦・精神医療サバイバーズフロント関西|2022年11月14日10:48AM

「兵庫県がこの問題を解決しようとする姿勢は非常にゆるい。このままでは同じことが起きる」

 11月1日午後、精神科「医療法人財団兵庫錦秀会神出病院」(神戸市西区、土居正典院長)を舞台にした暴行・監禁事件について、解決を求めて協力する7団体(※1)による兵庫県への要請書提出に先立ち県庁で開かれた記者会見で、県精神医療人権センター副代表の西川良一氏はそう断言した。

兵庫県への要請書提出を前に県庁で会見した(手前から)西川良一氏、弁護士の藤田翔一氏、筆者。(提供/吉田明彦)

 2020年3月に発覚した「神出病院事件」は人心を戦慄させた。別の刑事事件で逮捕された看護職員の携帯電話の中にある動画などから職員たちによる嗜虐的な暴力の事例が明らかになったのだ。男性患者同士にキスをさせる、男性患者の性器に塗ったジャムを別の男性患者に舐めさせる、落下防止柵付きのベッドを逆さにして患者を閉じ込める、トイレで患者に水をかけるなどの暴行の数々と、それらを撮影して回覧して楽しむ職員らの姿がそこにはあった。

 この事件では看護師、看護助手の計6人が逮捕・起訴され、すでに神戸地裁で全員有罪判決が下された。しかし事はそれで終わらず問題は拡がり続けた。同病院では昨年の5月20日にも別の職員による暴行事件が起きており、病院は神戸市には報告したものの、報道が伝えるまで公表しなかった。

 今年5月には同病院を経営する兵庫錦秀会が設置した「神出病院における虐待事件等に関する第三者委員会」(委員長は藤原正廣弁護士)による報告書(※2)が公表されたが、その内容はそれまで知られていたレベルをはるかに超える事態の深刻さを伝えていた。たとえば前記6人以外に、少なくとも21人の職員が虐待を繰り返していた。6人の上司である看護師長は、男性患者の身体を新任の看護助手らに押さえつけさせ、強制的に射精をさせて喜ぶなど暴行の限りを尽くしていた。医師の指示によらない身体拘束や隔離が常態化し、医師らも追認していた。院内はボイラーが壊れたままで冬場もシャワーから湯が出ず、浴槽にカビが生えたまま。医師・看護職員らの数が足りていないなど、最低限の設備管理と人員配置も行なわれていなかった。

背景に潜む経営実態

 事件の背景には兵庫錦秀会の前理事長・籔本雅巳氏(報告書では「B前理事長」)による病院の私物化と、それによる巨額の富の収奪があった。19年度までの8年間だけでも彼は総額20億円近くの役員報酬・交際費等を受け取り、そのほとんどは医療法が禁じる剰余金の配当だ。彼は最大限の利益を上げるため、同じ敷地内の高齢者施設から違法な入院をさせて満床の状態を維持しながら、現場に必要な設備と人員の配置を行なわず、最悪の事態を作り上げていた。

 報告書はこの前理事長が得た不正な収入の返済を含む厳正な対応を法人に求めているが、前理事長の妻、息子、法人の顧問弁護士らを含む理事会、監事らは応じようとしていない。医療法上の法人への監督権限を持つ兵庫県も、報告書を受けた後は法人の事務長らを呼んでヒアリングを行なう以上のことをしていない。

 そこでこれまで神戸市に対して監督権限行使と真相究明を求めてきた7団体が、同法人に医療法上の権限を行使して是正を命じ、従わない場合には業務停止その他の処分をするよう求める要請書を、今度は兵庫県に提出した。県からの回答の際には県知事との面談も行なうよう求めている。

『ルポ・精神病棟』など精神医療の問題を追い続けてきたジャーナリストの大熊一夫氏は、7月18日に開かれた県精神医療人権センターの記念講演会で「神出病院のような不良病院が存続するようでは、日本の精神保健に未来はない。同病院への処分は日本の精神保健がまっとうな道を歩むための絶対条件だ」と語った。

 神戸市による神出病院の入院患者への意向確認調査では48%が退院・転院を希望すると答えた。患者たちの救済が急がれる。問題解決の鍵は医療法上の法人への監督権限を持つ兵庫県が握っている。

※1 兵庫県内6団体(弁護士会、精神保健福祉士協会、社会福祉士会、精神福祉家族会連合会、医療ソーシャルワーカー協会、精神医療人権センター)と精神医療サバイバーズフロント関西。

※2 神出病院の公式サイト(http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/report/)より入手可能。

(『週刊金曜日』2022年11月11日号)

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