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報道も公的支援も後手に 台風15号豪雨 静岡市の深刻な被害状況

堀潤・ジャーナリスト|2022年10月15日8:15AM

 台風15号による記録的大雨に襲われた静岡市。同市清水区では大規模な断水に見舞われたが、葵区では9月23日夜から24日未明にかけ市内を流れる安倍川の支流・内牧川の護岸の一部が決壊し、濁流が一気に住宅街をのみ込んだ。

 土地の低い場所では大人の胸の高さを超える浸水があり、多数の住宅が被災した。急激な雨で川の水位が上がり、瞬く間に決壊する川の様子を地元の住民が映像におさめていた。あの日、どれだけ深刻な災害が発生していたかを物語る貴重な資料映像だ。報道も公的支援も後手にまわり、地域の住民は協力し合って復旧にあたらざるを得なかった。

住宅街の路上に土砂や土のうがうずたかく積まれた静岡市の被災現場。

 

 9月27日夜、筆者のツイッターのDMに、葵区に住む男性からメッセージが届いた。

「内牧川沿いの幸庵新田、内牧エリアでは数十世帯が床上浸水。27日現在も、清水同様、浸水した家財道具が道路に積まれています。現地では、ボランティアの受け入れ態勢がなく、地元の人間だけで復旧作業をしようという雰囲気だそうです。(略)自助、共助はもちろんですが、広く被災状況を知ってもらい多くの助けをお願いしたく、堀さんにもお力添えをいただけますよう、よろしくお願い申し上げます」

 このメッセージを受けて筆者は翌28日午後、現地に入った。内牧川では決壊した箇所の復旧工事が進められていたが、砂埃が舞う住宅街では泥まみれの家財道具やぬれて使えなくなった畳などの後片付けに住民が追われていた。

一人暮らしの自宅で被災した80代女性。玄関先で取材に応じてくれた。(2点とも9月28日撮影/堀潤)

 一人で暮らしているという80代の女性に出会った。自宅は床上浸水。泥の跡が壁に残っており、測ってみると女性の首の高さに匹敵した。洪水の夜は2階で寝ていたため命が奪われることはなかったが被害は深刻。疲れた表情で玄関に座り込んでいた。床下には泥が残り、風呂も台所も壊れてしまったという。今年の夏、50年近くかけていた水害の保険を解約したばかりで補償の見込みが立っていないと途方に暮れていた。今一番必要な支援は住宅を修繕し、生活を再建するための資金の見通しだ。

 インタビューを終え、お礼を述べると、女性は逆に筆者の食事のことを気にかけてくれた。

遅れた行政の実態把握

 10月5日午前10時現在、静岡県内の被害は死者・行方不明者3人、全壊や半壊、床上・床下浸水など建物への被害は計6541棟。自衛隊への要請は遅れ、被害の把握にも時間がかかった。県や市はどこまで迅速に互いに実態把握に努めたか疑問が残るという声を住民から取材中たびたび聞いた。

 実は静岡県が静岡市の浸水被害の発表を始めたのは9月24日午後6時の第5報から。それまで同市の数は発表されていなかった。しかもその第5報では床上浸水878とあるが、床下浸水に関しては空欄のまま。島田市や掛川市など、その他の自治体の状況は24日深夜0時の第1報から数字の報告が上がっている。静岡市でも葵区だけを見てもこれだけ深刻な被害が出ているのになぜ実態把握が遅れたのか、今後の検証課題の一つだ。

 公助なき自助、共助で、住民のみなさんは今日まで暮らしの再建に汗をかいてきた。復旧、復興するためにはまだまだ多くの課題を抱える住民がいる。速やかに、きめ細やかに、そうした声が行政に届くことを願ってやまない。

 住民の女性は「東南海地震などに備え、子どもの頃から防災訓練を徹底的に受けてきたつもりでした。しかし実際に被災者になってみると戸惑うことばかり。今回の災害対応で何が良くなかったのか、何ができなかったのか、もう一度点検しなおすことで、今後の防災に役立てなくてはいけない」と語った。

(『週刊金曜日』2022年10月14日号)

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