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なぜ京大は和解に応じないのか
琉球遺骨返還請求訴訟

西村秀樹・ジャーナリスト|2022年10月3日7:00AM

 京都帝国大学(現・京都大学)の人類学者2人が1930年前後に琉球王国の墓所から研究名目で持ち出した遺骨をめぐり、琉球民族4人が遺骨を保管中の京大に返還を求めた裁判の控訴審が9月14日に大阪高裁で始まった。一審判決で京都地裁は原告の「返還請求権」を認めず、もう一つの争点の京大の「保管占有権」を判断しなかった(本誌5月13日号既報)。

9月14日、大阪高裁での控訴審第1回弁論で入廷する控訴した人々。(撮影/西村秀樹)

 控訴審で、琉球民族側は「一審判決は事実認定と評価に誤りがある」と70ページの控訴理由書を提出。京大側は「一審の判断は正当だ」と21ページの控訴答弁書を提出し反論した。

 この裁判の困難さは、先住民族(琉球民族)が民族の葬送儀礼に従って遺骨返還を求める一方、裁くのはヤマト(本土)の法という点だ。遺骨などの相続を定めた民法897条は家族単位というヤマトの葬送儀礼に基づく。一審で京都地裁は「祭祀承継権は厳密に規定する必要がある」と判断した。だが琉球では集団で祖先を弔う。葬送儀礼が異なる困難さはアイヌ民族と北海道大学との間での遺骨返還請求訴訟でも生じたが、2016年に札幌地裁は「和解」を提案。北大はアイヌの遺骨返還に応じた。琉球民族の訴訟でも京都地裁は和解を探ったが、京大はかたくなに和解を拒否した。

 なぜ京大は和解に応じないのか。13日に開かれた琉球民族の支援集会では、今度の裁判がアリの一穴になることを京大が恐れているとの意見が支援者から出た。京大は大日本帝国時代に朝鮮民族、台湾の先住民族など植民地から数多くの遺骨を収集し、現在も保管している。学問研究のためなら何でも許されるわけではない。先住民族に遺骨返還を求める権利を認めた国際連合宣言(07年)に基づき、琉球民族側は遺骨の返還を求めている。問われているのは「学知の植民地主義」。裁判所もその立ち位置が問われている。

(『週刊金曜日』2022年9月30日号)

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