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教員の人権に冷たい日本政府
「日の丸・君が代」強制問題
国際機関から2度の是正勧告が出たけれど

永尾俊彦・ルポライター|2022年9月10日10:00AM

8月4日、国際機関からの「日の丸・君が代」勧告をめぐる教員らと文部科学省の交渉。(撮影/永尾俊彦)

「日の丸・君が代」強制問題について国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(UNESCO)の教職員勧告適用合同専門家委員会「CEART」(セアート)が日本政府に出した是正勧告を実現させるため、教員、弁護士、市民らと文部科学省の交渉が8月4日、東京・永田町の衆議院第一議員会館で開かれた。

 ILOとUNESCOは1966年に教員の人権の国際規範を定め、日本も賛成して「教員の地位勧告」を出した。この各国の履行状況監視のため、3年ごとに開かれるのがセアート(委員12人)だ。

 東京都立特別支援学校の元教員、渡辺厚子さんは石原慎太郎都知事時代の2003年以降、卒業式などで障害のある子どもの介助より「君が代」起立斉唱が校長からの職務命令で優先されるようになったことに抗し、都教育委員会から停職、減給など5回の処分を受けた。渡辺さんらは処分の取り消しを求めて提訴。「思想・良心の自由に反し違憲」との主張は認めないが減給と停職は基本的には取り消す判決が続き、渡辺さんの減給、停職も取り消された。だが文科省や東京都、大阪府・市の教育委員会は強制を続けている。

 そこで渡辺さんら「アイム,89東京教育労働者組合」(以下アイム)は14年、セアートに日本政府に是正勧告を出すよう申し立て、19年に最初の勧告が出された。

「勤務中の教職員には市民的自由は保障されない」との日本政府の主張に、セアートは「起立や斉唱を静かに拒否することは、職場という環境においてさえ(略)市民的権利を保持する個々の教員の権利」(アイム訳、以下同)と明白に指摘。そして「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける目的で、懲戒手続きについて教員団体と対話する機会を設けること」などを勧告した。

「この勧告は、国内の裁判では認めさせられなかった市民的(良心的)不服従の権利を認めた点が素晴らしい」と渡辺さんは感激した。

 だが、文科省は国際規範について問われているのに、日本の実情と法制に合わないと突っぱねた。アイムは、同省が地方教育委員会に勧告を英語のまま送ったので内容が知られていないことなどを含めセアートに事後報告した。

 その結果、今年6月に再勧告が承認された。日本政府は国際規範としての勧告に十分配慮すること、教員団体と協力して勧告の和訳を作成、対話すること、地方教委の勧告理解を促進することなどだ。

二重基準による人権軽視

 8月4日の交渉でも和訳問題が焦点だった。文科省初等中等教育局の水島淳専門官は「和訳の影響や意義がどれほどあるのか」「和訳するかは検討中」と繰り返した。

 不起立で3回処分され、定年退職後再任用されたが、年金支給開始年齢になったら任用を打ち切ると都教委から事前通告されている都立高校教諭の大能清子さんは「私がクビを切られるまであと約1年半。いつまでにどう検討するのか」と質問。水島専門官は「いつまでとは言えない」と突っぱねた。

 この日の交渉には石川大我参議院議員(立憲民主党)も参加した。水島専門官が一人で来て記録も十分取れず、専門官という課長補佐級の役職ゆえ独自に判断できないことを指摘。「あまりにも失礼。『全部検討中と言え』と言われて来たんでしょう?」と質すと、水島専門官は「回答方針は省内で相談した」と述べた。

 教員の人権には冷たい日本政府だが、国連人権理事会や多くの人権条約委員会を傍聴し、国際人権法に詳しい前田朗・東京造形大学名誉教授によれば、政府は18年の国連強制失踪委員会で拉致問題を訴え「勧告が出るぞ」と事前に国内で大宣伝をした。だが同委員会は拉致問題を取り上げず、日本軍性奴隷(「従軍慰安婦」)問題を解決せよとの勧告を出した。すると日本政府は強制失踪条約が発効した10年以前の問題は取り上げるべきでないと怒りの抗議をした。だが、拉致問題も同年以前の問題。「ダブルスタンダード(二重基準)で国際人権軽視です」と前田さんは批判した。

(2022年8月19日号)

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