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二度目の「不受理」
〈編集委員コラム 風速計〉
想田和弘

2022年7月8日6:42AM

 以前も書いたが、僕と柏木規与子は1997年、米国ニューヨーク市で別姓のまま結婚した。そして2018年、「夫の氏」「妻の氏」の両方に印をつけた婚姻届を東京・千代田区役所へ提出した。しかし区は夫婦同姓を規定する民法と戸籍法を根拠に「不受理」とした。

 そこで僕らは夫婦別姓弁護団とともに、国を相手に訴訟を起こした。21年4月、東京地裁は戸籍への記載については「家庭裁判所に不服申立てするのが適切」として退けたが、僕と柏木の婚姻自体は日本の法律上も「有効に成立している」と断言した。裁判には形式的には敗訴したが、僕らの婚姻の有効性を確認してもらうのが主な目的だったので、実質的な勝訴と受け止めて控訴はせず、判決が確定した。

 僕と柏木が日本でも法的な夫婦であるならば、戸籍にも婚姻の事実が記載されるべきであろう。そこで6月13日、僕らは再び千代田区役所へ婚姻届を提出した。東京地裁の判決文なども添付した。この問題に対する世の中の関心は高く、当日は大勢のメディアが取材にかけつけた。

 しかし千代田区は今回も「不受理」とした。理由は前回と同様だ。残念ではあるが、このアクションで日本の法律の矛盾と不備が、明確になったと思う。なにしろ、僕らは法的に結婚しているにもかかわらず、その事実を戸籍に反映するすべがない。逆に言うと、戸籍制度は僕らの婚姻を把握できないのである。実際、僕らは戸籍上は今も独身のままだ。これでは僕や柏木が別の女性や男性と婚姻届を出しても、役所は受理しかねない。要は重婚を防げない。

 驚いたのは、法務省の見解だ。本誌の宮本有紀記者が法務省に取材したところ、「裁判は国側の全面勝訴。法務省としては(両氏の)婚姻は有効に成立していないと考えている」(本誌6月24日号)と、裁判中の国側の主張を繰り返したそうだ。僕らの婚姻が有効に成立していると、あれほど明確に判決文に書かれていたのに、法務省は無視する方針らしい。裁判所の見解を認めてしまうと、法律の欠陥を認めざるをえないからであろう。

 不受理を受けて、僕らは近日中に家庭裁判所へ不服申立てをする予定だ。東京地裁の提案に沿った措置である。もし家裁が婚姻届の受理を命令する審判を下すなら、海外での別姓婚を戸籍にも記載する道筋が開ける可能性がある。家裁には英断を望む。

(『週刊金曜日』2022年7月1日号)

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