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INTERVIEW
ドラマ「Pachinko パチンコ」に出演
俳優・朴昭熙さん
ほかの何者でもない“在日”として

聞き手/金香清(ジャーナリスト)|2022年4月29日7:00AM

パク ソヒ・1975年生まれ。早大商学部卒。文学座研修科に在籍中に、TPT(シアター・プロジェクト・トウキョウ)の公演『BENT』の主役に抜擢される。現在はロサンゼルスをメインに、日米で俳優活動を行なっている。日本語、韓国語、英語のトリリンガル。米国では「ソウジ・アライ」の芸名を使う。

(提供/Apple TV+)

Appleオリジナルドラマシリーズ「Pachinko パチンコ」
日本統治下の朝鮮半島で生まれ育ち、後に日本に渡った女性とその家族を描いた、在日コリアン一家の物語。原作はコリア系米国人ミン・ジン・リーによる同名小説。米アカデミー賞助演女優賞のユン・ヨジョンほか、イ・ミンホ、南果歩が出演している。ストリーミングサービス「Apple TV+」で配信中。(提供/Apple TV+)


 パステルカラーの色合いのパチンコ店内で、老若男女が次々と登場してはダンスを踊る。BGMはグラス・ルーツの『今日を生きよう』。中には朝鮮半島の白い民族衣装を着ている人もいる。在日コリアンの家族のストーリーを描いたドラマ「Pachinkoパチンコ」(AppleTV+)のオープニング映像だ。
 日本にあるパチンコ店の8割以上が、在日コリアン系の人々が経営していることは、言わずと知れた事実だ。在日の一つの象徴とも言える「パチンコ」を、原作者のミン・ジン・リーは小説のタイトルにした。

【祖母へのメッセージ】

「このドラマには必ず出演したかった。まさに自分自身のストーリーですから」
 ドラマの主人公ソンジャの息子・モザスを演じた朴昭煕さんはそう話す。朴さんは在日コリアン3世の俳優で、現在、米ハリウッドを拠点に活動している。朴さんは、コリア系米国人であるミン・ジン・リーから背景取材のためのインタビューを受けたこともあり、映像化したら必ず出演したいと考えていたと言う。


 当初は主人公の孫であるソロモン役のオーディションを受けた。1次を突破し、いくつかのステップを踏んだものの合格の連絡はなく「諦めてふて寝をしていると」、ソロモンの父親役のオーディションの提案を受けた。


「オーディションの中で、韓国語が話せるかどうかテストするから、スピーチ映像を送ってほしいと言われました。自分には主人公のソンジャのような祖母がいたことやその思い出、そして、この役を演じることができたら、祖母もきっと喜ぶから頑張って演じたいということをスピーチしました」

【ハリウッドでの思わぬ壁】


 新潟県で生まれ千葉県で育った朴さんは、幼い頃からいつか米国で暮らしたいと考えていた。


「日本の小学校で名前が変だと言われることは、日常茶飯事でした。子どものからかい合いですし、いじめだとまでは思わなかったのですが、それでも内心は嫌な気持ちになっていました。幼い頃から父と一緒に、米国映画をよく観ていたのですが、米国ではネイティブアメリカン以外は全員が異邦人ですよね。そういう環境なら、自分も〝普通の人”になれるのではないかと思っていたのです」

 2002年、TPT(シアター・プロジェクト・トウキョウ)で、米国の有名演出家ロバート・アラン・アッカーマンによる『BENT』の主役に抜擢され、プロとしてデビューを果たした。その舞台を足掛かりに日本と米国を行き来するようになり、08年にはアッカーマン監督による映画『ラーメンガール』で、主役のブリタニー・マーフィーの恋人役を務めた。そうした俳優としての活動の実績が認められ、米国の永住権はすぐに取得できた。

 米ハリウッドの配役はほとんどがオーディションで決まるため、チャレンジさえすれば、さまざまな役を演じる機会が与えられる。朴さんは日本語ネイティブであるため、日本人役のオーディションを主に受けていたところ、思わぬ壁にぶつかった。

「オーセンティックジャパニーズ(本物の日本人)でないと、日本人役はできないと言われたのです。まさか移民大国の米国で、そんな言葉を聞くことになるとは思わなかったので驚きました」

 日本の芸者役を中国俳優が演じる映画などがあり、日本の文化界からの申し入れが影響したと推測される。

 名前が「パク」では日本人役の声がかかりにくいこともあり、「ソウジ・アライ」という日本式の芸名を使うことにした。この数年の間にハリウッドでも「オーセンティック」にこだわることはなくなり、風向きも変わってきた。

【一人の女性の物語】

 同ドラマは米国で制作された。監督やスタッフも多くがコリア系米国人、あるいは韓国人ネイティブだ。朴さんはその中で数少ない当事者の一人だ。米国人の作る在日のストーリーに、違和感はなかっただろうか。


「モザスの演出が米国的なマッチョイズムではないかと思ったりしたこともありますが、最終的には自分も納得する形で演技ができました。米国で制作されたことでプラスのほうが大きかったと思います。制作のスケール感が違うし、日韓だけでなく世界中の人に見てもらうことができますから」

 同作は制作費100億円とも推定されており、カナダにリアルな漁業市場のセットが設けられるなど、破格の制作規模も話題だ。配信主力市場である米国と韓国では反応もよく、無料配信された第一話は、再生数が1000万回を超えた。

(提供/Apple TV+)

「日本の視聴者も、好意的で素晴らしいレビューをたくさん書いてくださっています。日本ではもしかしたら、移民の物語が身近に感じられないのかもしれませんが、日本にも移民の歴史はあります。このドラマは苦境の中でたくましく生きていく一人の女性の物語であって、日本人であれ韓国人であれ、多くの人が一緒に悲しみ喜び、共感できる人間ドラマだと思っています」

(提供/Apple TV+)

【二つの銀バッジの意味】

 ドラマはソンジャと孫のソロモンの話が軸となっている。その二人を息子として父親として見つめ支えるのが、朴さんが演じるモザスだ。朴さんは、ソンジャの老年役を演じたユン・ヨジョン(上の写真左)とのシーンが特に印象的だという。ユンは21年の米アカデミー賞助演女優賞を受賞した、韓国を代表する女優だ。


「ソンジャが墓を探しに故郷の役所に行くと、『ああ、あっちの人ね』と顔をしかめる職員が、『日本国籍なのか』と言うなど、在日について何も知らないんです。同行したモザスが不満をぶつけようとすると、ソンジャが止めるのですが……。このシーンが在日の心理とか、韓国における在日の立場をよく表していると思いました」

 韓流ブームの影響で日韓の文化の交流は進んだが、在日が置いてきぼりになっていると感じることもある。

「在日2~3世は、日本と朝鮮半島の懸け橋になれと言われて育ってきたけれども、いまその懸け橋はどうなってしまったのだろうと思うこともあります」

 そんな思いから、ドラマの完成試写会の際には、ジャケットに二つの銀バッジをつけて登場した。

「一つは日本列島、一つは朝鮮半島。自分で作ったオリジナルのもので、『在日バッジ』と呼んでいます。日本や米国でアイデンティティにかかわる色々な経験をしましたが、これからも僕の姿を通じて、在日の存在を世界に知らせたいと思っています。英語の辞書に『ZAINICHI』という単語が載るような環境を作るのが目標。在日はほかの何者でもない在日として、ここに存在しているのだと示していきたいです」

聞き手/金香清(ジャーナリスト)

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