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“日の丸ヤミ金”奨学金 
私はこうして一括請求を撃退した!(中)

三宅勝久|2022年1月18日6:57PM

日本学生支援機構とAさんによる訴訟が行なわれた可部簡易裁判所。(撮影/三宅勝久)

【初めて書いた「準備書面」】

〈準備書面(1) 被告(Aさん=筆者注)

 原告(支援機構=同)による請求のうち、請求の原因6については争う〉

「請求の原因6」とは、繰り上げ一括請求された約109万円のことを指す。これを「争う」、つまり認めないという意味だ。以下、理由が続く。

〈原告が2021年1月におこなった一括請求の根拠としている日本学生支援機構法施行令5条5項によれば、「支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠った」場合に、分割弁済のうちの返還期限がまだきていない金額までさかのぼって一括で請求できるとしている。

 これは、万が一にも支払能力がない者に一括請求をすることがないよう、支払能力を有することの確認を、一括請求の際の要件とする趣旨の規定であると考えるべきである。なぜなら、支払能力のない者に一括請求してしまえば、未払い元本が一気に膨れ上がり、その後に分割和解に応じたとしても当分は延滞金ばかりを払い続けることになって、破産に追い込まれる可能性が上がるだけだからである。それは債務者を苦しめるだけでなく、元本の回収という観点から債権者の利益にもならない。(中略)したがって、ここで言う「支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠った」場合とは、多額の収入や一括で返還ができるほどの潤沢な預貯金があるのに一切の返還に応じないような極めて悪質なケースを指していることは明らかである。

 しかるに、被告は前職で恒常的な賃金未払いによるワーキングプア状態にあった上、2019年2月には会社の解散にともなう会社都合解雇によって、現在に至るまで定期的な収入が途絶えている。返済が滞ったのは、単に支払能力を失っていたからである。

 また(中略)、2019年10月に指定難病と診断され、手術や入退院を繰り返す闘病生活を続けてきた。

 一括請求をされた2021年1月は、まさにこのような状況であった。病気については、現在も投薬治療を受けながら経過観察中であるが、免疫力が低下しているために、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大状況もあって、就労が極めて困難な状況にある。

 以上のように、被告には、一括請求をされた当時も今も支払能力はなく、病気や生活苦のために自身の借金について考える余裕すらない状況に置かれていたのであって、「支払能力があるにもかかわらず……著しく怠った」状態にあったとは到底言えない。

 したがって、原告が請求の原因と主張する2021年1月の一括請求は、日本学生支援機構法施行令5条5項に定められた支払能力の確認をせずに、あるいは誤認してなされた違法なものであって認められない〉

 裁判の期日が近づいたある日、Aさんはこの準備書面を裁判所に送った。1週間ほどすると、原告の支援機構から次のような反論の書面が届いた。

【支援機構から届いた反論】

〈被告(Aさん=筆者注)は、原告(支援機構=同)が支払能力の確認をせずに一括請求をするのは認められないと主張するが、被告から支払能力の状況について、申告がないかぎり、原告はその事を知る由もない。被告は、支払能力が無いのであれば、原告へ申告し返還期限猶予等の制度を受ける事が可能であったにも関わらず、それを行わなかったので、支払能力ありと判断されても然るべきである。

 よって、支払督促申立書の請求の原因第6項の一括請求は違法なものではない。以上〉

 Aさんの主張に対して徹底抗戦する旨の内容が書かれていた。経済状況について申告がなければ「支払能力」はあると判断できる、だから一括請求は違法ではないという反論だ。

 こうして迎えた裁判期日の9月2日は、またしても雨模様だった。Aさんは前回と同様、知人の車で可部簡易裁判所まで送ってもらった。はたして自分の主張が通用するのか、相手方の弁護士にこてんぱんにやられるのではないか。そんな不安があったが、「言いたいことは言おう」と腹を括った。(つづく)

(三宅勝久・ジャーナリスト、2021年12月24日号)

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