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安田菜津紀さん、ネットの差別書き込みで提訴
亡き父への思い

2021年12月26日12:50PM

「父が最期に私に託してくれた『私の役割』だと思います」――フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(34歳、写真左)は12月8日、インターネット上の在日韓国・朝鮮人に対する差別書き込みで人格権を侵害されたとして、西日本に住む男女2人の投稿者を相手取り、それぞれが195万円の損害賠償を支払うよう求めて東京地裁に提訴した。記者会見では、亡き父への思いと「差別と向き合う」ことを決意した経緯を静かに語った。

 菜津紀さんには、父・清達さんについて、幼いころの苦い思い出がある。絵本の読み聞かせに熱心だった母に代わって清達さんが絵本を読んでくれたとき、日本語がすらすらと読めないことにしびれを切らし、「もういい。お父さん、日本人じゃないみたい」と言って、父の膝から立ち上がってしまった。父はかなしそうに笑っていた。あのときの自分の言葉、ずっとやさしかった父の表情は、今なお、棘のように胸を刺す。

 菜津紀さんが中学2年生になったとき、清達さんは亡くなった。高校生になって初めて海外渡航することになり、パスポートを作るために戸籍を取り寄せ、清達さんが実は「韓国籍」だったことを知る。なぜ、父は自分のルーツを黙っていたのか? 父の家族や親族はどこかに生きているのか? 朝鮮半島のどこから、いつ渡って来たのか? 疑問ばかりがぐるぐると頭の中を巡ったが、誰に聞いたらいいのか、聞いてもいいのかさえ、わからなかった。

 疑問を抱えたままの安田さんが父や祖父のルーツを調べ始めたのはジャーナリストになってから、本格的には昨年のこと。京都・東九条で暮らしていた父の生家を探し出し、周辺に暮らす在日コリアンの歴史をさかのぼって学んだことは、戦前から今に続く壮絶な差別やヘイトスピーチの実態だった。「もしかしたら、父はこういうものを自分の子どもに見せたくなくて出自を隠したのでは?」。

 昨年12月、菜津紀さんは自ら副代表を務めるNPO法人「Dialogue for People」の公式ウェブサイトに、そんな自身のルーツ探しの記事を掲載、大きな反響を呼んだ。一方でツイッター上には、ヘイトスピーチそのものの差別書き込みも相次いだ。

 発信者情報開示裁判を経て今秋に判明した西日本の女性投稿者は清達さんのことを「密入国では? 犯罪ですよね?」と一方的に断定、「逃げずに返信しなさい」と非難。男性投稿者は「反日韓国人撃退マニュアル(筆者註=差別出版物の一つ)とか読んでみろ チョン共(同=差別語)が何をして、なぜ日本人から嫌われてるかがよく分かるわい」と書き綴っていた。

【差別は「魂の殺人」】

 菜津紀さんは今回の提訴に至った理由を「(差別に対して)仕方がないで終わらせたくなかった」と吐露。「心の傷つきに留まらない。ヘイトスピーチは被害者に、声をあげたら再び言葉の暴力にさらされるという恐怖を抱かせ、沈黙を強いる魂の殺人です」と述べた。「密入国」という書き込みについても「父について事実と違うことを書かれたということよりも、歴史的背景を無視したまま、法的手続きを取らずに入国しなければならなかった人たちを一括りに『犯罪者』として差別することが問題なのです」と明確にした。

【ナチを支えた街角ヘイト】

 菜津紀さんのパートナーで同じNPO法人代表理事の佐藤慧さん(写真右)も会見に同席。「私たちの会も情報を発信するメディアNPOですが、メディアの役割は情報の共有だけではない。社会の進むべき道を示す役割も大きい。ヘイトや誹謗中傷を放置することは、まっとうな言論空間で対話を重ねていくという民主主義の根幹を揺るがす」と強調するとともに、「ナチスのレイシズムによる大量虐殺も街角のヘイトスピーチを不特定多数が支持したことから広がったのではないか」と警鐘を鳴らした。

(本田雅和・編集部、2021年12月17日号)

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