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差別、ヘイト、冤罪と闘い続ける 
33年目の多田謡子反権力人権賞

2021年12月11日2:10PM

 少数者の人権擁護のために尽力して夭折した故・多田謡子弁護士の遺産を基に友人らが設立した「多田謡子反権力人権基金」は毎年末、国家権力をはじめとしたあらゆる権力や差別・抑圧と闘う人人を顕彰し、支援してきて33年目になる。今年は4個人・団体への「人権賞」贈呈を決定、受賞発表会を12月18日午後2時から東京・神田駿河台の連合会館で開催すると発表した。

 近年のヘイトスピーチの広がりに対し、被害者への連帯と反撃も確かな潮流となりつつある今年の受賞者は、(1)埼玉県在住のフィリピン人一家を「追放しろ」という「在特会」(在日特権を許さない市民の会)など「行動する保守」を標榜する集団に対抗して、反レイシズム(人種主義)を掲げて街頭でのカウンター(反撃)などを組織してきた「差別・排外主義に反対する連絡会」(2)東証一部上場の大手不動産会社「フジ住宅」で役員らが歴史修正主義の文書を社内配布し、レイシャルハラスメントを繰り返して「全人格的隷属」を求める企業風土に対して、孤立無援の職場に残りながら損害賠償請求訴訟で闘う在日韓国人3世の女性(本誌11月26日号きんようアンテナ参照)と支援団体「ヘイトハラスメント裁判を支える会」――。

2021年10月10日、東京・新宿で行なわれた「差別・排外主義に反対する連絡会」主催デモ。(同連絡会提供)

 

 国家権力による人権弾圧を告発する闘いとして、(3)1967年8月に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」の「犯人」として別件逮捕され、物的証拠もないまま「自白を強要された」と裁判で訴えたが無期懲役が確定、仮釈放のあと再審無罪や国家賠償を勝ち取ったものの、証拠偽造などを謝罪しようとしない警察・検察を糾弾し、冤罪を生まない社会をめざす活動を続ける桜井昌司さん(74歳)(4)沖縄・辺野古での米軍新基地建設・埋め立て強行に対し、97年に結成されたヘリ基地反対協議会は一貫して抗議行動を継続してきたが、陸上での土砂運搬ダンプの阻止闘争と並び、カヌー部隊などによる直接阻止行動が今年4月には海上保安庁警備ボートによる危険規制行為で重傷者が出るなど苦難を強いられているヘリ基地反対協海上チーム――に決まった。

【真に平等で自由な社会を】

 例年3個人・団体に「多田謡子反権力人権賞」の正賞として多田の著作『私の敵が見えてきた』(編集工房ノア)、副賞として賞金20万円が贈られてきたが、今年は女性差別と闘ってきた匿名の女性からの特別寄付があったため、賞金を30万円に増額し、受賞者も4個人・団体とした。受賞発表会では受賞者や受賞団体代表からの報告や講演がある。

 京都生まれ、京都育ちの多田は中学時代からベトナム反戦運動や卒業式ボイコット運動に参加。京都大学教育学部に進学後は「竹本(信弘・経済学部助手=当時)処分粉砕闘争」に参加する中で法学部に転部。82年に司法試験に合格し、司法修習生時代に「反戦法律家連合」に所属した。85年4月に東京国際合同法律事務所に入所以来、風邪をこじらせた肺炎で29歳で亡くなるまでの2年足らずの間に、国際反戦デーや沖縄デー闘争などのデモや集会場での違法検問、所持品検査、過剰警備などの弾圧監視弁護団を務め、山谷、三里塚、反天皇制闘争などの逮捕者との深夜寒中での接見や刑事被告人らの弁護に積極的に携わった。

 多田の最期を看取った当時の恋人で元国鉄労働組合員の久下格・多田基金運営委員(67歳)は「彼女はあらゆる権力的なものが嫌いで、真に自由で平等な社会を求めて生きました。でも決して強い人間ではなく、小学校時代のいじめられた体験をずっと引きずっていた。彼女の弁護活動に人間味があり、多くの人から共感を得ていたのは、自身が当事者として、抑圧され、権利を奪われた人びとと同じ場所に立っていたからです。そんな多田の思いを伝えたい」と語る。

(本田雅和・編集部、2021年12月3日号)

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