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小池晃・日本共産党書記局長に聞く 
野党による連合政権

小池晃×中島岳志|2021年10月28日5:14PM

【表1】

こうした状況なので、安倍・菅内閣と同じ、政治家のマッピング(表1参照)でⅣのゾーンに自民党の中核というのは寄っている。これに対して、野党は対抗軸としてⅡのゾーンでまとまるべきです。ゆるやかなリベラル保守から共産党まで、ひとつの軸となることが、野党共闘だと思います。

 

 

【保守の美風を捨てた自民党にかわる野党共闘】

小池 いまの市民と野党の共闘には保守の皆さんが多数参加しています。「オール沖縄」が典型的です。こうした共闘がなぜ成り立っているかというと、自民党がもはやまともな保守政党でなくなり「反動と逆行」の政党に堕落したことがあると思います。契機は、集団的自衛権の行使を認めた15年の安保法制強行です。それまでの自民党がまがりなりにも守ってきた憲法解釈を、一夜にして閣議決定でひっくり返してしまった。いくら多数を得た政党・政派であっても、憲法の枠内に縛られるという立憲主義を破壊する暴挙でした。この後も、他者との対話を拒否し、数の力で次々と強行していく暴走政治が続きました。

自民党がまともな保守政党でなくなったことが根本にあるので、いまの野党共闘は、保守の人も含めた幅広い共闘関係に発展している。そこがいままでにない強みです。

市民運動の変化も大きかった。安保法制に反対する市民たちがつくった団体「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は、戦後史におけるさまざまな運動の経緯を乗り越えた画期的なものでした。従来の労働運動のナショナルセンターの違いを超えて、一致する課題で共闘し、集会を開き、デモをすることが日常的な風景となった。こうした中で、幅広い政党・政治勢力が結集できる状況が形づくられていきました。

中島 岳志(なかじま たけし)・東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授、本誌編集委員。1975年、大阪府生まれ。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。北海道大学大学院准教授を経て、2016年から東工大へ。著書に『「リベラル保守」宣言』(13年、新潮社)、『自分ごとの政治学』(20年、NHK出版)、『こんな政権なら乗れる』(21年、朝日新書)など。(撮影/渡部睦美)

中島 この話は非常に重要で、自民党が保守でなくなったというのはまさに私も同じ考えです。そもそも保守の王道は、多くの長い歴史の風雪に耐えて残ってきた良識を大切にしながら、徐々に変革を加えていこうというグラジュアルな改革です。人間に対する懐疑的な見方をもっていて、自分だって間違えているかもしれないというのが前提にあるので、かつての保守政治家は野党の言い分に耳を傾けてきました。野党の言い分に合理性があれば、合意形成やすり合わせをして着地点を見出していった。これが保守政治のひとつの気風でした。自民党はこうした保守の美風を捨ててしまった。

政治家のマッピングのⅡのゾーンはかつて宏池会がしめていて、共産党の中にも宏池会への一定の信頼があったと思います。しかしそれが安倍内閣以降、決定的に破壊されてしまった。

小池 かつての自民党には宏池会だけでなく、さまざまな潮流の中に野党との対話に向き合う姿勢があったと思います。僕が国会議員になったのは1998年で、最初に対峙した首相は小渕恵三さんだった。予算委員会でも、こちらの指摘を真摯に受け止めて答弁しようという姿勢は見えた。

けれども安倍政権以降は人間の「息遣い」のようなものが感じられない。菅さんにいたっては野党議員だけでなく、専門家や学者、文化人ですら、政権に都合の悪いものは、切り捨てていくという姿勢でしたから。就任して真っ先にやった、日本学術会議の会員候補6人の任命拒否問題は、その典型でした。

【コロナを契機に共闘の一致点が増える】

中島 もうひとつ、今回の野党共闘が成立している背景には、自民党が以前にも増して「自助」を強調するようになっていることがあります。かつて田中角栄さんが首相の時代(1972~74年)は、日本的な温情主義を使ったきわめて不透明な形であったものの、再分配をやっていて、再分配を重視していました。Ⅰのゾーンです。しかし90年代に自民党は小さな政府の議論を取り入れ、自己責任という方向に向かっていった。小泉純一郎内閣以降は明らかにそちらに舵をきった。これに対して出てきた、セーフティネットを重視し、リスクを社会化していくために、もうひとつの選択肢をつくろうという動きが野党共闘の背景にはあります。

小池 この新自由主義的な経済政策というのは、これまで一部の野党も巻き込んで進めてきた側面があったと思います。ただ、ここがコロナのもとで決定的に変わった。医療・介護、社会保障制度が貧しいものにされ、ケア労働者の賃金が低くおさえられてきたことの矛盾が、コロナ禍で一気に噴き出したからです。

野党共闘の出発点は、2015年の安保法制とのたたかいでした。「立憲主義を守れ」という一致点が土台となり、ジェンダー平等など、個人の尊厳の重視でも野党間の一致度はとても高かった。その一方で、生活分野、社会保障でのわかりやすい共通項を示すことには苦労しました。その転換点となったのがコロナ危機です。立憲民主党の枝野幸男代表は昨年の代表選で「民進党までの綱領は、自己責任や自助を強調する新自由主義的な側面が残念ながら残っていた」と率直に語り、合流新党の綱領で、新自由主義とは違う社会をつくることを明確にしました。その結果、野党共闘の政策的な一致の幅が、新自由主義的な経済政策への対抗にまで広がった。

中島 この間、アベノミクスのもと、日本の経済格差がさらに広がる中で、特に立憲民主党のほうが、はっきりと新自由主義に対する決別の意思を持ったというのは大きかったですね。

小池 本当にそう思います。9月8日に市民連合と合意した共通政策には「医療費削減政策を転換する」という文言が入った。私はこの一文を感慨深く受け止めています。

中島 新自由主義が台頭する中、中小企業を守れ、日本の農業を守れというきわめてまっとうな保守の王道の主張が、共産党の政策と近寄ってきた。現代の非常に面白い現象です。

小池 医師会や農協の人たちからも、共産党の主張が一番いい、自分の考えと一致するという話を聞くことが多くなりました。

中島 自民党の土台になってきた商店街振興組合も、この20年間の自民党政治で痛めつけられてきた人たちで、そのことにはっきりと気づかされたのがコロナの問題だと思うんです。保守の側からの憤りによって、菅内閣の支持率が30%を切った。ここにどう野党が声をあげて、保守層といわれるところまでも引きつけられるのか、というのが非常に重要です。

小池 今回確認した共通政策の中に、「農林水産業への支援を強め、食料安全保障を確保する」ことも入りましたし、消費税の減税も明記されました。こうした中身をさらに豊かにして示していくことが、保守の皆さんにアピールしていくためにも、非常に重要だと考えています。

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