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明石市議会が旧優生保護法被害者の救済拡充を見送り

平野次郎|2021年10月27日5:03PM

9月29日、明石市議会本会議を傍聴する小林宝二さん(左)と喜美子さん。(撮影/平野次郎)

旧優生保護法下で障害者らが不妊手術や妊娠中絶を強いられた問題で、国の一時金支給法が対象を被害者に限定しているのを配偶者まで広げるなど支援を手厚くした兵庫県明石市の旧優生保護法被害者支援条例案が、9月29日の市議会本会議で否決された。泉房穂市長が翌日に提出した修正案も審議を見送られ、全国初の条例制定は実現しなかった。

「明石市旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例」案は「被害者等に寄り添うとともにその必要とする施策を推進し、もって優生思想を決して認めることなく、誰もが疾病又は障害の有無によって分け隔てられることのないまちづくりを推進する」を制定の目的とする。支援金については、国の支給法が不妊手術を強いられた人に一律320万円を支給するのに対し、同条例案では対象を「不妊手術・中絶手術を受けた本人とその配偶者である明石市民」に広げ、1人につき300万円を支給するとした。

本会議に先立ち、9月22日に開かれた市議会の総務常任委員会では、同条例案が賛成多数(賛成が共産会派など3人、反対が自民会派など2人)で承認されていた。29日の本会議では自民会派が「国家賠償請求訴訟が控訴中で司法判断が確定していない中、市民の税金を使うのはどうか。300万円という支給額の根拠も明確でない」と反対、共産など3会派が「障害のある人もない人もだれ一人取り残さないまちづくりを進める明石市が国や県の不十分な支援を補い、他市へも波及させていくことは大切だ」と賛成の立場から討論を繰り広げた。継続審議を主張する公明が「条例づくりの手続きを含めて慎重に審議すべきだ」として退席後、採決に入り起立少数で条例案は否決された(賛成9人、反対12人)。本会議では議長を除く議員28人のうち自民系10人が反対した。

【市長「諦めていない」】

今年8月、神戸地裁は不妊手術被害の国賠訴訟で国会の立法不作為を一連の裁判では初めて認めたものの、除斥期間を理由に請求を棄却する判決を言い渡していた。この日の本会議では、同裁判の原告(控訴中)のうち、聴覚障害者の小林宝二さん(89歳)、喜美子さん(同)夫妻=明石市在住=が傍聴席から見守った。

本会議終了後に開かれた泉市長と市民との対話集会で、小林さん夫妻は不妊手術によって受けた苦しみを手話で懸命に訴えた。結婚してまもなく喜美子さんの妊娠がわかり2人で喜び合った。しかし喜美子さんの母が来て宝二さんの母と話した後、喜美子さんは病院に連れていかれ、詳しい説明がないまま「お腹の赤ちゃんが腐っている」と言われて手術を受けた。すごく悲しい思いをしたが「また赤ちゃんをつくろうね」と2人で期待していた。だがいつまでたっても妊娠することはなく、子どもができない苦しみと悲しみを持ち続けてきた。喜美子さんは「そういう思いで生きてきたことを今日改めて思い出した」と話し、宝二さんは「私たちの苦しみが理解されていない。賛成が少数だったのは差別がまだまだ根強いからだ」と議会を批判した。

泉市長は「これまで障害者福祉の問題を市民とともにやってきた経緯があり、旧優生保護法の問題についても一緒に条例案を提出してきた。採決の結果は残念だが、議会の理解を得るべく明日にでも修正した条例案を再度上程したい」と決意を表明。その言葉の通り翌30日には自民議員などから指摘があった箇所を改めた修正案を提出した。だが、市議会は議会最終日10月13日、議会運営委員会での協議で「修正案は文章を一部変えているが根本は(修正前の原案と)変わっていない」とし、議決された議案は同一の会期中に再び提出できない一事不再議の原則を理由に上程せず、修正案の審議を見送った。

閉会後の囲み取材で泉市長は「諦めていない。早期の条例制定へ向けて議会と話し合いを続けていきたい」と述べた。

(平野次郎・フリーライター、2021年10月22日号)

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