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総選挙の争点は「選択的夫婦別姓」 
多様な家族に対応できる国会に

井田奈穂|2021年10月22日7:45PM

2020年2月に選択的夫婦別姓・全国陳情アクションが主催した院内集会には、自民党も含む与野党議員が参加し、当事者たちの声に耳を傾けた。前列左から2人目が井田奈穂さん。(撮影/宮本有紀)

選択的夫婦別姓制度導入は戦後の長い課題で、「国際婦人年」の1975年には民法改正に関する請願が参議院に提出されている。女性差別撤廃条約の批准を経て、96年には法制審議会が選択的夫婦別姓制度導入を含む民法改正案を答申。だがそれから25年経っても実現していない。同姓強制は、信条による差別の禁止や個人の尊厳と両性の平等を謳う憲法に違反すると訴える裁判もこれまで複数提起されてきた。しかし、いずれの裁判も最高裁大法廷の多数意見は「違憲ではない」と判断し、国会で審議せよと議論を預けた。法改正をするには、賛成する国会議員を増やさなければならない。総選挙を控え、これまで全国で陳情・請願の活動をし、議員らに実情を訴えてきた「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんに話を聞いた。

――10月13日時点で確認できるだけで「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」を採択した地方議会は全国299議会だとか。

井田 全国陳情アクションの働きかけによる採択は91議会で、そのほかは各地の活動や自主的な採択です。第一次別姓訴訟の最高裁合憲判決が出た2015年以前は50件でしたが、この数年で爆発的に増えているのは、全国の人々の「国会が動け」という思いが込められていると思います。

――目を見張る実績なので長いご活動かと思いますが、18年末からなのですよね。きっかけは何ですか。

井田 サイボウズの青野慶久社長が別姓を求める訴訟を起こす、第二次別姓訴訟も始まると聞いて、頑張ってくださいと言うだけでいいのかな、自分には何ができるだろうと思ったんです。

私自身も結婚改姓して離婚して再婚してまた姓を変えました。最初の結婚時も改姓が嫌だったのですが、双方の親に女性が変えるのが当たり前だと言われて仕方がないのかと思ってしまった。井田さんと言われる度に自分がいないようで落ち込んだのですが、この名前でキャリアを築いたのと子どもが井田姓を変えたくないというので、離婚後も婚氏続称して子どもたちと私の戸籍をつくり、今の夫とも最初は事実婚をしていました。その夫が手術をすることになり、法律婚の妻でないと承諾サインができないと病院に言われて、わざわざ夫の親を呼ぶことになってしまった。それで考えた結果、翌年に法律婚をしたんです。

再び望まない改姓をして、井田は通称使用となります。井田の戸籍筆頭者の私が除籍になり、子どもたちとは別戸籍になりました。

井田 奈穂(いだ なほ)・「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長。職業はIT企業の会社員。2018年にアクションを立ち上げ、全国で陳情・請願の活動のほか、議員と当事者との対話・勉強会などの活動も積極的に行なっている。

【名義変更に伴う手続きは地獄だった】

――制度導入反対派には「親子別姓は子どもがかわいそう」という主張がありますが、離婚や再婚が当たり前のいま、同姓同戸籍が原則の現行制度では井田さんの例のようにかえって親子別姓を招きますよね。

井田 本当にそうです。それに経済活動的にも非生産的な制度だと実体験しました。改姓した後に海外出張がありましたが、入場IDはすでに井田で申請している。ただパスポートは戸籍姓になっているので、本人確認を求められた場合、証明するものがない。それで入場IDに戸籍姓も併記してもらい、パスポートの表記も一致させないといけないので、併記するための手続きをしました。

外務省は基本的に旧姓併記を認めておらず、やむを得ない事情があり証明できる場合のみ認めるシステムです。戸籍謄本のほか渡航日数や滞在予定、便名、現地での仕事内容と、それを会社の代表者が証明し捺印をした書類、旧姓使用をしている理由書もつけて出せと言われました。そのほか会社概要も必要で、合計8種類の書類を揃えて持っていったんです。そのうち旧姓使用をしている理由書は、この書き方ではダメだと言われその場で書き直しました。

もう一つ、会社代表に印をもらった旧姓使用をしている証明書も出し直しになったんです。会社に手間をかけさせたくないから自分で内容を書いて捺印だけしてもらいましたが、「これはあなたが書きましたよね。証明にはならないので代表者に自筆で書いてもらって、サインと社判を押してもらい持ってきてください」と言われ、やり直し。本当に大変でしたが、とりあえず旧姓併記できました。 今度はクレジットカードです。海外で使ってトラブルがあったら、名義が違うと自分のものだと証明できないので名義変更しようと問い合わせしたところ、今は扱いが変わっていますが当時は結婚改姓の手続きは新規発行と同じ扱いだと言われたんですね。となるとカードに紐づく口座も、あらゆる引き落としも全部、名義変更しなければなりません。

子どもの姓が変わらなくても保護者名が変われば、学校関係も習い事も保証人の書類を全部変えなければならない。私が法的保証人で作った娘の銀行口座も、私の姓が変わったので今も娘の親権者であることを娘側の戸籍謄本で証明せよと言われたんです。娘の戸籍は当時埼玉県にあったのでそこまで取りに行きました。なぜ私の籍に移せないかというと、未成年の籍は入り先の同姓の親がいなければ動かしてはならないためです。

このように100個以上もの名義変更に伴う手続きが地獄のように辛くて、仕事も育児も家事もあるのに、こんなことに時間を使うのは無駄だと思いました。それに放っておいたら自分の子どもにも同じ思いをさせることになる。私はもうこの改姓手続きをやらないだろうから、法改正されても当事者ではないですが、子どもたちに同じことをさせて恥じないかと自問し、制度を変えておきたいと強く思うようになりました。

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