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東京外環道工事、大深度地下法の違憲性浮上

丸山重威|2021年1月25日1:59PM

「外環ネット」は2020年末にも東京・成城学園前駅前で該当署名活動を実施。(提供/外環ネット)

「家屋損傷58軒、騒音・振動102軒」――東京外かく環状道路(東京外環道)の地下トンネルルート上の陥没、空洞発見で、周辺住民ら「外環被害住民連絡会・調布」は昨年12月27日、地域一帯の住宅308軒を対象に実施した被害調査の結果(回答132軒)を公表した。住民たちは資産価値の低下や新たな陥没、地盤沈下などを心配しつつ、不安な正月を過ごした。

住宅街の道路と住宅敷地に陥没が発生したのは昨年10月18日。以来、現場は空洞を埋める土砂を運ぶダンプカーやミキサーなどが往復し、ボーリングやレーザー調査、測量などが続いた。国土交通省と東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)は、有識者委員会の中間報告を受けて「工事は陥没の要因の一つ」と認め、「住宅損傷などの補償をする」と発表したが「因果関係は調査中」としたまま、工事再開の意図は隠していない。

こうした中、大深度地下法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の違憲性や外環道自体の問題性が明らかになりつつある。

まず、大深度地下法の問題では「大深度地下は通常利用されない場所で、地上には影響を与えない」として地上の所有権者には一切無断で掘削を認めてきた大前提が、この陥没と空洞の発見で崩れた。また『日本経済新聞』がイタリアの衛星解析企業らによるデータをもとに12月18日付で報じたところでは、地下を掘削用のシールドマシンが通過した直後に一帯の地表が2~3センチ沈下したという。

同時に問題になったのは陥没が起きた地域の地盤だ。ルート決定の際、その地域の地歴や地盤をどのように調べ、環境アセスメントをどのように行なったのか。明らかになったのは、高架を前提にしていたルートをそのまま地下に下ろして計画し、「大深度は地上には影響がない」との虚構を前提にした調査で事業が承認され、工事に入ったことだ。

【「個別交渉」で分断図る?】

12月18日、NEXCO東日本の有識者委員会(委員長・小泉淳早稲田大学名誉教授)は「特殊な地盤条件下で行われたシールドトンネルの施工が要因の一つである可能性が高い」とする調査の中間報告をまとめ、報告した。

NEXCO東日本はこれを受けて「家屋損傷については補償する」と発表した。しかし被害をすべて補償するかのように宣伝しつつ、実際には目に見える家屋の被害のみ対象に、たとえば「外壁のヒビの拡大について、セメントで補修するお手伝いはするが、それ以上の工事はそちらで……」(被害者Aさんへの回答)という姿勢。異物で埋めた穴や空洞の危険性や、ルート上および周辺の地上建築物の安全確保、住民の肉体的・精神的損害、将来に備えた責任などには口を閉ざし、被害者の「連絡会」との交渉には応じないままだ。1月8日からは「ご相談をお受けする」と個別の「相談会」を設定したが、ここでも「相談情報を公にする行為はお控え下さい」「団体でのご相談についてはお受けいたしかねます」とごまかし、個別「決着」を図る姿勢を見せている。

昨年10月の陥没事故、同11月の空洞発見以来、一般にも「地権者が知らないうちに地下を掘るなど、そんな法律はいつできたのか」「そんな危険を冒して、2兆円もかかる外環道などやめたらいい」などの声が急速に広がっている。特に『日経』の衛星観測の報道は衝撃的で、リニア新幹線の建設問題とも絡めて「もう工事は無理では」との声も出る。外環道ルート周辺を流れる野川の酸欠気泡(本誌昨年3月27日号などを参照)は昨年末まで続いている。

今年3月に予定される工事計画終了期限の延長を見越して、東京外環道訴訟原告団・弁護団は12月25日に新たな差し止め訴訟を東京地裁に提起。国交省やNEXCO東日本などに申し入れた。外環道沿線住民らの「外環ネット」が工事中止と大深度地下法廃止を求めて12月6日から始めた署名は年末までに2000筆を集めている。

キズをこれ以上大きくしないためにも、「工事中止」の政治的決断が必要ではないだろうか。

(丸山重威・ジャーナリスト、2021年1月8日号)

 

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