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自衛隊は安倍政権の「私兵」か 
政権に利用される「航空ショー」

山崎雅弘|2020年6月26日11:05AM

「屋上で手を振る医療関係者」場面は、自衛隊病院で写された。(テレビ朝日の番組画面より)

5月29日、航空自衛隊の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」が東京上空で展示飛行を行なった。青空に白い飛行機雲を描き出す光景は、同日のニュース番組で紹介されたが、各局とも判で押したような「美談」扱いの報じ方で、自衛隊側が発表した「新型コロナウイルスへ対応中の医療従事者等に対する敬意と感謝」という説明を電波に乗せて流していた。

翌日の大手新聞各紙も、この華やかな航空ショーのイベントに疑問を差し挟まず公式説明をそのまま記事にしたが、これらのニュースや新聞記事をジャーナリズムの学校で学生が提出したら、おそらく「落第」と評価されるだろう。なぜなら、この国策イベントを決定した主体が誰なのかという点に何も言及していないからである。

国内線と国際線の旅客機が飛び交う首都上空で自衛隊機が展示飛行を行なうには、安全確保も含めて広範囲にわたる許認可と調整を必要とする。自衛隊幹部の思いつきでは実現できない。防衛大臣ですら、自衛隊の最高指揮官でもある内閣総理大臣の許可なしに、そんな決定を下す権限を有しない。

ところが、安倍晋三政権はこのイベントが誰の発案と命令によるものか、国民に対する説明責任を果たそうとしなかった。航空自衛隊は税金で運用される公的組織で、職員は国家公務員である以上、有事の軍事行動とは異質な平時の展示飛行の命令をパイロットに下した最高責任者が誰なのかは明確に説明されなくてはならない。

しかし河野太郎防衛相は同日の記者会見で「発案の経緯」を質問されても「やることが大事でプロセスはどうでもいいだろう」と、記者の質問をはぐらかした。本来ならその場にいる記者が「きちんと答えなさい」と指摘して当然の不誠実な態度だが、番記者たちは問い詰めることもしなかった。

もし総理大臣や防衛相が思いつきで航空自衛隊の展示飛行を首都上空で行なわせ、その決定の経緯を主権者で納税者である国民に説明しないなら、自衛隊はすでに安倍内閣の「私兵」として使われていることになる。実際、新聞各紙によれば自衛隊や防衛省内部でも疑問の声が出ている。「自衛隊が政権の人気取りに使われていると思われるのは迷惑だ(自衛隊幹部)」「理由は分からないが、発案者は言わないことになっている(防衛省幹部)」(『毎日新聞』6月1日付)という言葉が示す通り、意思決定のプロセスが不透明な命令への服従は現場の自衛隊員のモラルにも否定的な影響を及ぼし得る。

【「屋上で喜ぶ医療関係者」は自衛隊病院での撮影だった】

しかも、当日のニュースで流された「病院の屋上で大勢の医療関係者が空を見上げて喜んでいる」という映像が、実は自衛隊病院にメディアを集めて撮らせた、一種の「やらせ」であった疑いが後に判明した。河野防衛相は6月2日になって「自分の発案だった」と説明したが、安倍首相の許可を得たか否かには触れなかった。

SNS上には展示飛行を絶賛する一般市民の声が溢れたが、その一方で「政府がすべきことは医療従事者の境遇改善で飛行機の見世物ではない」などの批判も投稿されていた。

あの航空ショーが安倍政権の発案した見世物だとしたら、その意図は何か。

イベントの趣旨として語られた「医療従事者への敬意と感謝」という大義名分は、結果として「政府の現場支援策の不備や苛酷な勤務状況への不満」を医療関係者が表明しづらい空気を作り出した。布マスクや現金給付、休業補償など新型コロナウイルス対策における安倍政権の施策はいずれも迅速さに欠けるが、航空ショーの飛行機雲でそうした不満も一時的に打ち消されたかのようにも見える。

先の戦争中も、日本放送協会(NHK)や新聞各紙は前線で戦う兵士への「感謝」を繰り返し報じた。当時の国民は、そんな心理誘導に従い、戦争指導部の失策や無能力から目をそらされ続けた。今起きているのもその一種ではないかという注意と警戒が必要だろう。

(山崎雅弘・戦史/紛争史研究家、2020年6月12日号)

 

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