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性暴力なき社会を目指して
被害当事者団体・支援者らの団体が 法務大臣に刑法改正求める

小川たまか|2020年4月3日6:26PM

性暴力の被害当事者や支援者らにとって2020年は特別な年だ。17年の刑法性犯罪規定改正時に、「必要があれば3年後を目処に再度見直し検討を行う」という、異例の附帯決議がついたからだ。その20年を迎え、是が非でもさらなる改正に向けてスタートを切りたいところなのだ。

今年、大きな動きがあったのは3月12日以降。この日、昨年3月に相次いだ4件の性犯罪無罪判決の中でも、もっとも大きく報道された、名古屋での実父から娘への准強制性交等事件について、高裁で逆転の有罪判決が下された。

この5日後の17日、12団体からなる「刑法改正市民プロジェクト」は、森まさこ法

森まさこ大臣(左から3人目)に署名と要望書を手渡した刑法改正市民プロジェクトのメンバーら。(撮影/小川たまか)

務大臣に刑法改正などを求める要望書と約9万4000筆の署名を提出。市民プロジェクトのメンバーによれば、この要望書提出は、自民党のワンツー議連(性暴力は1件でもあれば多すぎる=one is too manyを意味する、性暴力撲滅を目指す議連)の後押しにより、3月12日以降に急遽決まったという。

改正を求める署名は昨年5月にスタートしているが、判決のあった今年3月12日から17日までに1万筆以上増えたといい、世論の盛り上がりを感じさせる。

市民プロジェクトからの要望は3点だ。

1、刑法性犯罪規定改正のための法制審議会もしくは、その前段となる検討会の設置

2、検討委員に、性暴力被害当事者ならびに支援者を複数名入れること

3、「公訴時効の撤廃または停止」「暴行脅迫要件の緩和・撤廃」など前の改正で見直し が実現しなかった事項(合計10項目)の検討を行なうこと

前回、17年の刑法改正にあたってつくられた検討委員会では、被害者側の視点に立った意見を述べたのは12人の委員の中で2人だった。当事者を委員に加えることは、市民団体の悲願とも言える。

要望書と署名を受け取った森大臣からは「3月中にできるだけ進行させていきたい」という回答があったといい、当事者らは前向きに受け止めている。

この翌週となる23日には、性被害当事者を中心とするロビイング団体、一般社団法人spring(スプリング)が内閣府に要望書を提出。刑法改正のほか、被害者支援の充実、警察・検察における対応の改善など5項目を求めた。

対応したのは、橋本聖子内閣府男女共同参画担当相と今井絵理子政務官。被害者の包括的なケアを行なうワンストップ支援センターが不足していることや、他国に比べて性教育が遅れていることを伝えたといい、同団体代表理事の山本潤さんは「真摯に受け止めてもらえたと思う」とコメントした。

さらに25日には、NPO法人しあわせなみだが、「刑法に『性犯罪被害者としての障害者』の概念を盛り込むことを求める署名」約1万1000筆を法務省へ提出。

3月25日、障害者に関する要望書提出のあと、司法記者クラブで行なわれた記者会見で、署名を持って説明する中野宏美氏(左)。(撮影/小川たまか)

同団体は性暴力撲滅にあたっての活動を行なう中で、障害を持つ人が被害に遭いやすいことや、被害を訴えることの困難について気づいたことから、「被害者に障害があることに乗じた性犯罪規定の創設」などを求めている。同団体理事長の中野宏美さんは、4件の無罪判決のうち、現在も控訴審が行なわれている静岡での12歳実子へのレイプ事件では、被害者に障害があり、一審では証言の信憑性が疑われたことを例に挙げた。

法務省では、性犯罪についてワーキンググループを設け実態調査を行なってきた。この調査が3月に終わったこともあり、近々新たな動きがあると予想されている。一方で再改正は法曹界からの反発も強い。森大臣からは「女性である自分が大臣であるうちに」というコメントもあったようで、今が正念場であることは間違いない。

名古屋高裁の判決時には、被害者からコメントが発表された。

「今なお被害で苦しんでいる子どもに声をかけるとしたら、『勇気を持って一歩踏み出してほしい』と伝えたい」

その勇気に応えられる社会に変えなくてはならない。

(小川たまか・ライター、20年4月3日号)

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