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ケースワーカー「死体遺棄」逮捕で問われる自治体の良識

みわよしこ|2020年2月19日7:04PM

京都市向日市ホームページより

2019年6月、京都府向日市の生活保護ケースワーカー・Y氏(当時29歳)が、受給者・H氏(当時55歳)の傷害致死事件に関連した死体遺棄容疑で逮捕された。H氏と共犯のZ氏を含む3人に対する公判は、同年9月より京都地裁で行なわれている。

本事件の特徴は、受給者のH氏が暴力的な言動によって、担当ケースワーカーのY氏を精神的に支配し、不当要求を繰り返していたことだ。高圧的なケースワーカーが受給者を萎縮させるのではなく、高圧的な受給者「が」ケースワーカー「を」支配していた。なぜ、このような異様な関係が形成され、維持され、死体遺棄に至ったのだろうか。

公判を通じて明らかになったのは、少なくとも生活保護業務における、職場の深刻な機能不全だ。1日数時間にわたるH氏からの電話と不当要求の数々に、Y氏が消耗させられていた事実は、日々、「ケース記録」に記載されていた。直属の上司は、「知りませんでした」と言える立場にはない。しかし、電話での不当要求を断られたH氏が激昂し、Y氏に「上司を出せ」と求めると、電話を回された上司はH氏に「Yが至らなくてすみません」と詫び、市の生活保護業務や部下のY氏を守る態度は示さなかったという。

H氏は、時には「殺す」といった脅しでY氏に対する支配を強めた。ケースワーカーによる訪問調査は「少なくとも半年に1回」と定められているが、H氏は自ら、週に1回の訪問を求めた。19年4月、Y氏は自身の携帯電話の番号をH氏に知られ、以後、市役所の閉庁日も夜間もH氏の電話から解放されなくなった。H氏はさらにY氏に対する支配を強め、Y氏の私費から約100万円の現金を提供させるに至った。Y氏は結果として、H氏の生活保護費不正受給に加担した。

H氏がY氏に、「同居していた女性が死んだ」と電話で告げ、Y氏を呼び出して証拠隠滅への協力を求めたのは、19年6月1日だった。協力すれば、向日市としての不祥事となる。Y氏は公判で「もしも市役所の職場で電話を受けたのなら、誰かに相談できたかもしれない」と語っている。しかしその日は土曜日で、市役所の閉庁日だった。巻き込まれてしまったY氏は、6月12日、H氏とともに逮捕された。その時の心境について、Y氏は「もうこれで、電話がかかってくることも殺されることもないと安堵した」と法廷で語っている。なお、Y氏の当時の上司は事件後すぐに、向日市役所の他部署に異動した。

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