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天皇即位パレード「祝賀御列の儀」、市民静寂のワケ

初沢亜利|2019年11月29日5:47PM

パレード終了後に見かけた東京・世田谷区から来た女性。破れて色あせた日の丸の小旗を手にしていた。小さな字で「皇太子殿下 雅子妃殿下 御結婚おめでとうございます 財団法人国民の祝日を祝う会」と書かれていた。(撮影/初沢亜利)

10月22日の予定が台風被害の影響で延期された「祝賀御列の儀」が11月10日午後に行なわれた。

午前9時半の青山一丁目付近には、手荷物検査に並ぶ人の列が300メートルほどできていた。話をきいてみると、北海道から九州までさまざまな地方から2人を一目見ようと駆け付けたようだった。年配者だけではなく、30代の子連れ夫妻なども多く見かけた。

護憲派か改憲派か? 約20人に聞くと7割が護憲派だった。「よく分からない」と言う若者も。「天皇を崇拝する国粋主義者」との文脈で約12万人を語れそうにない。護憲派だからこそ天皇の平和を重んずる発言に心打たれる人も、この30年で増えただろう。1990(平成2)年のパレード当日には東京都内で34件のゲリラ事件があったが、今回はそうした報告は聞かない。象徴としての天皇が国民の内に定着した30年だった。

12時から手荷物検査が始まったが青山一丁目付近は想像を上回る人集り。14時すぎには目測でも数千人が列を作った。このままでは手荷物検査をする前にパレードが終わってしまう。焦った警察は急遽検査要員を増やしたが、時すでに遅し。15時になると検査を取り止め後方から自由に観覧させる、という判断に切り換えてしまった。

【通過は一瞬、みな撮影に夢中】

交差点付近で待機していると、パレード1時間前に、隣でテレビ局の女性アナウンサーが中継本番用の原稿を何度も読み返していた。「両陛下が目の前にいらっしゃいました。皇后陛下の白いドレスがとても華やかです。自分の声が聞こえなくなるくらいの大きな歓声に包まれています」。すでに原稿ができていることに苦笑しつつ何時間も立ったまま静かに待ち続ける市民を眺めた。日本人の我慢強さが美徳として語られるようになったのはいつからだったか?

15時過ぎ、特別仕様のオープンカーが走り去るのは一瞬の出来事だった。観客はスマホで瞬間を捉えるのに夢中。声を上げる暇はなく歓声はあまりに小さい。場の高揚感も感じられなかった。終了後も警察の指示が出るまで15分、市民は静かに沿道に立ち尽くした。聞き分けの良い日本人の姿だけが印象に残ったパレードだった。

さて、令和の次世代のパレードはどうなるのか? 平成の天皇以降、市民の皇室への信頼は、人格への尊敬の念が高いウエイトを占めている。そのことが未来の皇室と国民の関係をかえって危うくさせることになるかもしれない。

(初沢亜利・写真家、2019年11月15日号)

 

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