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収まらない世界経済のリスク

高橋伸彰|2019年8月13日3:55PM

 もちろん、自由化に向けた総論で一致しても交渉が結実するまでには長い時間が必要だ。「ラウンド」と呼ばれる過去の多国間交渉を振り返っても、自由化の対象品目を絞り交渉のテーブルに着いてから一定の結論を得るまでには数年間、中でも農産物を議題に上げたウルグアイ・ラウンドでは8年もの時間を要した。

それでも自由化の道を後退せずに前進してきたのは、各国の間に「保護主義と闘う」共通の意思があったからだ。その意味で、止まれば倒れる自転車を漕ぐような努力を重ねて貿易の自由化を進めてきたのである。

安倍晋三首相は今回のサミット開催に際し「日本は議長として、意見の違いよりも一致点や共通点を見出していきたい」と述べたが、「保護主義と闘う」こそ最も重要な一致点だったはずだ。確かに、今回の首脳宣言には「自由、公平、無差別」の文言が盛られたが、それは「実現し(中略)保つよう努力する」目標にすぎず、「保護主義と闘う」に込められた各国の決意とは似て非なる宣言だ。そもそも米中をはじめ、複雑で多様な関係にある多国間の一致点など最初から存在するものではない。侃々諤々の議論を経て創り出すものであり、そこで求められるのが議長のリーダーシップである。

そう考えると、今回のサミットで安倍首相は議長としての役割を全うしたとは言えない。意見の違いを放置し各国の主張を拾い集めて首脳宣言を取りまとめても、世界経済のリスクは収まらないのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2019年7月5日号)

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