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徴用工問題めぐり韓国と貿易紛争へ 
根拠乏しい「官製ヘイト」

角南圭祐|2019年8月7日5:11PM

【根拠とぼしい「官製ヘイト」】

「日本にもブーメランとして返ってくる」と、輸出規制を批判的に報じる日本メディアもあるが、経済的な視点にとどまっている。元徴用工らの人権問題に目を向けた報道や、選挙に乗じた政権による韓国叩きの悪質さに目を向ける論調は、ほとんど見られない。

昨年10月と11月、韓国大法院(最高裁)は、植民地時代に日本で働かせた元徴用工らに賠償するよう、新日鉄住金(現日本製鉄)と三菱重工に命じた。両企業の不法行為(意に反した動員や強制労働)は、韓国だけでなく日本の裁判所も認めていることだ。また、日本政府も日本の裁判所も、1965年の日韓請求権協定では個人の請求権は消滅していないとの立場だった。にもかかわらず、その後日本政府は、請求権協定で解決済みだとして企業の賠償を認めず、安倍首相は「国際法に照らしてあり得ない」と判決を批判した。

「私のせいで大変なことになったのではないか」。韓国紙『中央日報』は10日、唯一生存する原告で元徴用工の李春植さん(95歳)の声をこう伝えた。旧宗主国、旧植民地の狭間で長く置き去りにされてきた被害者が心を痛めなければならない責任は、誰にあるのか。

「日本製鉄元徴用工裁判を支援する会」の矢野秀喜さんは「安倍政権の歴史修正主義と嫌韓を利用する政策に問題はあるが、判決に従わず賠償しない企業にも大きな責任がある」と強調する。大日本帝国で辛酸をなめ、命からがら帰国し、戦後も苦労してきた元徴用工たちの人権と名誉を回復することが、日韓関係を前進させる道だ。

議長国として自由貿易を掲げたG20大阪サミットが終わると、輸出規制を武器に参院選を闘い始めた安倍政権。北朝鮮に続き、韓国までも敵だとあおれば、選挙に勝てると踏んだのだろうか。根拠の乏しい「嫌韓」政策は、在日コリアンに対する差別に政府がお墨付きを与えることになりかねず、「官製ヘイト」と呼ぶべき愚策だ。

15日の『朝日新聞』は規制が「妥当だ」と回答した人が56%に上るとする世論調査結果を発表した。政権与党の得票につながるのか、日本社会の成熟度が試されている。

(角南圭祐・共同通信記者、2019年7月19日号)

 

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