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「種子法廃止は違憲」 
農家ら1300人らが提訴 東京地裁

高橋清隆|2019年6月12日3:09PM

5月24日、東京・霞が関の東京地裁に横断幕を掲げ入場する原告ら。(撮影/高橋清隆)

主要農産物種子法(種子法)の廃止(2018年4月1日)が生存権を保障する憲法25条などに抵触するとして違憲確認などを求める「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」を、全国の農家・消費者1315人が5月24日、東京地方裁判所に起こした。

原告は、山田正彦元農林水産相が幹事長を務める「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」が募った。同会は2015年5月に「TPP交渉差止・違憲訴訟」を起こし、今回はその第3次訴訟として位置付ける。川田龍平参議院議員やジャーナリストの堤未果氏、農業経済学が専門の鈴木宣弘・東京大学大学院教授、元外務省情報局長の孫崎享氏、エコノミストの植草一秀氏も原告に名を連ねる。

当日は午後1時に訴状と人数分の委任状を民事第2部に提出し、受理された。147人の弁護人を擁し、1年半かけて訴状を準備した。

種子法は1952年、食糧増産という国家的要請の下、コメ、麦、大豆の安定供給を図るため制定された。各都道府県に地域に合った優良品種の開発や試験などとともに、圃場を指定してそれら優良品種の原種・原原種の生産を義務付けてきた。これによって、採取農家は安心して種子を生産し、一般農家は優良種子を安価で購入し、一般消費者は安全な主要農産物を安く購入することができた。

訴状は、(1)種子法廃止法が違憲であることの確認、(2)原告A(一般農家)が種子法に定められた諸々の措置を経て生産された種子を用いて主要農産物を栽培できる地位にあることの確認、(3)原告B(一般消費者)が同農産物の供給を受ける地位にあることの確認、(4)原告C(採取農家)が、自らの所有する圃場が種子法に定められた「種子生産圃場」として都道府県によって指定される地位にあることの確認、(5)被告の国は原告らに対して各1万円を支払う、ことを求めている。

(1)については憲法25条の生存権と同29条の財産権を根拠にする。25条は「健康で文化的」と書かれ「食」の表記はないが、48年の「世界人権宣言」や66年の「国際人権規約」を引用し、「食料への権利」が当然に含まれるとの主張を展開する。訴額は1955万円になる。

【廃止の背景にはTPP協定 貿易自由化より小農の権利を】

「TPP交渉差止・違憲訴訟」では違憲確認や締結差止が棄却されたが、2018年1月の控訴審判決は種子法廃止について「背景事情の一つにTPP協定に関する動向があったことは否定できない」と認めている。

記者会見で、「違憲訴訟の会」の池住義憲代表代行は今回の提訴を「歴史的な裁判」と評した。国連が2019年からの10年間を「家族農業の10年」と決めたことや、18年12月に「小農と農村で働く人々の権利に関する宣言」を採択したことを挙げ、「それに逆行するのが日本政府。1315人の仲間とともに、司法府の判断を仰ぐ」と強調した。

弁護団の岩月浩二代表は、種子法がサンフランシスコ講和条約発効の3日後に成立したことに触れ、「食料に対する権利を保障していくことが国の基盤であると当時の国会議員は痛感して制定した。それを衆参わずか5時間ずつの審議で中身も分からないまま廃止した。これに対し、食料に対する権利を侵害するということで提訴に至った」と動機を明かした。

種子法廃止を受け9道県でこれに代わる条例をすでに制定し、2県が制定予定。種子法関連で国会に提出されている各地方議会からの意見書は4月15日現在131件に上る。山田氏は「すべての都道府県が条例を作れるわけではない」と訴訟の意義を説明する。

国会では種子法復活法案が継続審議になっているが、与党の抵抗で成立の見通しは立っていない。川田氏は「国会議員の中に、種子法廃止の問題を知って驚く人がいた。まだ、中身があまり知られていない。法律を復活させていくためにも、争うことで事実が明らかになればと思う」と裁判の行方に期待を寄せる。

(高橋清隆・ジャーナリスト、2019年5月31日号)

 

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