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DV・ストーカー行為を米軍・県警が放置か 
沖縄・米兵女性殺害事件の背景

城間陽介|2019年5月14日11:30AM

4月13日午後、現場のアパートから遺体が運び出された。(撮影/城間陽介)

沖縄県北谷町のアパートの寝室で今年4月13日朝、米軍キャンプ・シュワブ居住の海軍兵が、同アパートの住人で元交際相手の日本人女性(44歳)を刃物で殺害後、自殺したとみられる事件が起きた。

海軍兵の名はガブリエル・アルフェード・オリベーロ3等兵曹(32歳)。在沖米軍は今年1月、女性から性的暴行の訴えを受けて、オリベーロ3等兵曹に接近禁止の軍事保護命令(ミリタリー・プロテクティブ・オーダー=MPO)を発令。事件発生時まで効力は継続していた。また、在日米軍の勤務時間外行動指針「リバティー制度」で一定階級以下の兵士は午前1~5時の間は基地外へ出ることが禁止されていた。にもかかわらずこれらの規則に反して女性宅で犯行に及んだことが問題となっている。後に米軍は3等兵曹に外泊許可を出していたと発表したが、その理由は明らかにしていない。

沖縄県警によると2人は少なくとも前日の12日夜から一緒にアパートにいたとされ、オリベーロ3等兵曹は13日午前5~6時ごろ、寝室で女性の首付近を刺して殺害、自らも両足の付け根部分を刺して自害した。2人は着衣の状態で、女性の手には抵抗したとみられる傷跡があった。女性には子どもがおり、事件発生時は部屋にいて今回の事件を親族に通報している。

オリベーロ3等兵曹と女性が出会った経緯は不明だが、別れ話をめぐり少なくとも2018年10月にはDV(ドメスティック・バイオレンス)があった疑いが浮上。関係者の証言では、オリベーロ3等兵曹が女性の部屋を荒らし、家財道具を壊した。女性は110番通報し器物損壊容疑で訴えたが、現場に来た警察官に「示談が成立した」として訴えを取り下げた。だが取材を進めると、3等兵曹の母親が女性に「息子を許してほしい」と直接電話し、被害を訴えないよう迫っていたことが分かった。

その後も女性へのDVやストーカー行為は止まらなかった。今年1月、オリベーロ3等兵曹は女性の住むアパートのオートロックをすり抜けて、部屋の前で待ち伏せした。女性が帰ってくるのを待って室内に押し入り、女性を拘束して性的暴行を加えている。通報を受けた米軍は、3等兵曹に対し女性に近づかないようMPOを発令した。女性はその経緯を友人にSNSで伝えている。

【DVへの認識があったのか】

米軍は1月下旬、「2人に交際トラブルがある」と県警に通報。駆けつけた沖縄署員に女性は「(3等兵曹に)わいせつな行為をされた」と説明した。県警によると、被害届提出を女性に促したが、「米軍に対応してもらっている」と県警側の関与は望まなかったという。一方、女性の周辺によると「彼女は何度も県警や米軍に被害を相談していた」という。

県警によると最後に女性と連絡を取ったのは3月中旬で、女性は「トラブルはない。大丈夫」と返答。だが友人の証言では3月下旬にオリベーロ3等兵曹がアパート周辺に度々現れ女性はおびえていた。そして4月、事件は起きた。

今回の事件で明らかになったのは、米軍はオリベーロ3等兵曹に女性への接近禁止令も出すなど問題行動を把握していたにもかかわらず監視せず放置し、リバティー制度も含めて形骸化していたことだ。また、米軍から通報を受けた県警も当初から「事件性、緊急性は高くない」と判断。また女性からの被害申告がないとして踏み込んだ対応をしなかった。

日米両当局ともに女性から「トラブルはなくなった」と説明を受けたことから「差し迫った脅威はないと判断した」などと釈明。対応に問題はなかったとの認識を示している。しかし女性がトラブルはなくなったと言ったのは3等兵曹にMPO発令後、米軍基地内に隔離されていると聞かされたためだった可能性がある。DV特有の、被害者が相手からの報復行為を恐れて訴えを躊躇ったり取り下げたりするという事情に対する認識が両当局にあったのか。日米の捜査機関の管理が徹底していれば救える命だった可能性がある。

県警は近く、オリベーロ3等兵曹を被疑者死亡のまま殺人容疑で書類送検する方針だ。

(城間陽介・『沖縄タイムス』記者、2019年4月26日号)

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