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豊かさの源泉は消費
ではなく労働

高橋伸彰|2019年4月28日7:00PM

改めて指摘するまでもなく消費者が商品を購入する前には、商品を生産し販売する労働がある。労働者は独立した人格を備え自由な意思を持つ人間であり、消費者に奉仕する「奴隷」ではない。消費生活の物質的豊かさも重要だが、それ以上に労働生活の精神的豊かさが自律した人間にとっては重要なのである。

そうでなければ仕事を通じた社会的な連帯や信頼は醸成されず、公正な社会も成立しない。一人ひとりの労働者が自らの労働に満足できる社会を築くには、受験競争の結果にすぎない学歴よりも労働者が自ら磨いた技能や専門知識を重視する採用や転職の機会を、労使に加え政府も協力して創出していくことが必要である。

「頭だけでは人を救えない、体がついていかなければ人を救えない」。救急医療の現場で活躍する医師の言葉だ。どんなに優れた医療技術が開発されても、それを実践する能力を備えた医師が現場で懸命に働かなければ人の命は救えない。同じことは日々の経済活動にも言える。職業能力を備えた人間の労働がなければ、アイデアだけでは商品は形にならないし、その労働を社会が評価しなければ豊かさも実現しない。

統計不正とは関わりなく雇用環境は改善していると安倍晋三首相は強弁するが、現に働いている人がどれだけ満足しているかを首相は知っているのだろうか。少なくとも有効求人倍率が全都道府県で1.0倍を超えたからといって、仕事の満足度まで高まったとは言えないのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2019年3月8日号)

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