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小4で「自衛隊」教化の授業 
文科省・改訂指導要領の狙いは

永野厚男|2019年3月29日12:56PM

中学生の職場体験で行う“基本教練”の様子。(自衛隊新潟地本『雪椿』2015年新年号から)

文部科学省国立教育政策研究所が2月8日に東京都内で開催した小学校社会の教育課程研究指定校事業研究協議会で、9~10歳児の4年生に自衛隊を教える“実践”を鳴門教育大学附属小学校(徳島県)の女性教諭が発表した。

同省が「大綱的基準として法的拘束力あり」とする小学校学習指導要領・社会(以下、指導要領)の「内容」は従来、3年生が「身近な地域や市区町村の様子、消防署や警察署など」、5年生が「我が国の国土の様子と国民生活」、6年生が「我が国の政治の働き、我が国の歴史上の主な事象」などと、系統立て教える構造だった。

だが2017年3月“官報告示”の改訂指導要領は、まだ「都道府県の様子」を学ぶ段階の4年生の「自然災害から人々を守る活動」について、「内容の取扱い」の項で「県庁や市役所の働きなどを中心に取り上げ」としつつ、「国の機関」として「自衛隊」だけ明示し、「取り上げること」と強制した。

一方、指導要領の6年生の「内容」の「日中戦争や我が国に関わる第二次世界大戦、日本国憲法の制定」の指導については、「内容の取扱い」で、「指導に当たっては、児童の発達の段階を考慮すること」と、戦争の悲惨さや9条の意義に触れさせたくない意図が垣間見られる記述をしている。

前出の女性教諭は18年10月17日の「地震災害から命とくらしを守るために」と題する4年生の授業で「起きた後 行方不明者をさがす 自えい隊」と、チョークで板書した。同教諭の作った「指導計画」では次の3カ所、自衛隊について記述している。

(1) 「調べ方を決める」の時間帯(段階)の「予想される子どもの反応」の欄に、「地震が発生すると、消防署や警察、自衛隊の人が協力し対処しているよ」。

(2)「ひとり(グループ)で調べる」の時間帯の「活動と主な評価」の欄に、「地震が発生した時に県や市、消防署や警察署、自衛隊の人々がどのような対策をしているのか調べよう」。

(3)(2)の時間帯の「予想される子どもの反応」の欄に、「県外や自衛隊などの国からも、支援が来るように計画されているよ」。

今回の授業は20年4月からの改訂指導要領実施前の先取りだが、文科省が3月下旬、教科書検定結果を公表する社会でも、小4での自衛隊教化の記述増は必至だ。今夏、全国の教育委員会が行なう小学校教科書採択でも各社の4・6年生の社会科で自衛隊をどう記述しているか、監視する必要がある。

【「国の平和と安全を守る」と軍事の役割も教え込ませる】

文科省作成の『小学校学習指導要領解説社会編』(17年6月)は、4年生で扱う自衛隊について指導要領に盛った「自然災害」に留まらず、「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と教え込むよう踏み込んだ(本欄17年8月18日号拙稿)。

これまで中学3年で憲法第9条との関係を含め学習してきた自衛隊について「自然災害」を名目に小4に前倒しした上、人々の間で賛否両論ある軍事の役割まで「役立つ」とだけ教え込ませる「衣の下から鎧」は、安倍晋三首相が謀たくらむ憲法改“正”の国民投票が万一、政治日程に上った時、賛成票を増やす政治的意図が明白だ。

池田賢市中央大学教授は筆者の取材に、「自然災害での自衛隊の活動には多くの人が感謝するが、その場面での姿は軍隊としての性質にそのままスライドするものではない。軍事力による“抑止力”が実際には『やられる前にやる』という攻撃を正当化し、平和を脅おびやかしている現実は現在の国際情勢が証明している。学校教育ではある場面だけ切り取るのではなく、自衛隊そのものの性質を丁寧に扱っていく必要がある」と語る。

徳島県以外の小中学校でも防衛省作成の広報パンフを教室に置いたり、自衛隊員募集ポスターを校内に掲示する都立高校がある今、“抑止力”が軍拡を生む事実や集団的自衛権行使の危険性、自衛隊法にある防衛出動命令拒否者への最大7年の懲役刑適用等、事実を教員は児童・生徒に伝えてほしい。

(永野厚男・教育ジャーナリスト、2019年3月15日号)

 

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