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障がい者水増し雇用問題 
霞ヶ関では厚労省に責任転嫁の声も

吉田啓志|2018年9月27日12:08PM

“水増し”が1000人超と最も多かった国税庁。(撮影/片岡伸行)

中央省庁の33行政機関のうち8割の27機関で、雇用している障害者の人数を40年以上にわたって水増ししていたことがわかった。省庁間で責任を押しつけ合う無様な姿に、障害者団体は怒りを通り越して呆れ顔。昨年6月時点の水増し分は3460人と、公表してきた障害者雇用数の半数に及ぶ。法定雇用数の実現は容易でない。

8月28日、不正の公表を受け、菅義偉官房長官は「障がいのある方の活躍の場拡大を民間に率先して進めていくべき立場としてあってはならない。深くお詫びを申し上げます」と陳謝した。関係府省連絡会議と、同会議の下に弁護士を交えた検証機関を設置し、原因究明をしたうえで10月をめどに再発防止策をつくる考えを示した。

「『公務員性善説』にたった仕組みですから……」。厚生労働省の担当幹部は、今回の事態を「想定外」と釈明する。障害者雇用促進法は、一定割合の障害者の雇用を義務づけている。一定規模以上の民間企業は2・2%。行政のチェックを受け、法定雇用率を下回れば未達1人につき月5万円の「罰金」が課せられる。

これに対し、「旗振り役」を期待される国や自治体は2・5%(2017年度まで2・3%)と高く設定されている。ただし、実情は厚労省が各省庁の申告数をそのまま発表するだけで、罰則もない。法定雇用率が定められた1976年以来、そうしたことを漫然と続けてきた結果が3460人の水増しだ。厚労省は17年6月時点で「国は約6900人の障害者を雇い、平均雇用率は2・49%」と公表していた。それが実際は1・19%だった。中でも国税庁は水増し数が1000人を超えていた。7日には最高裁など立法、司法の8機関でも400人以上の水増しが発覚した。水増しの背景には、各省庁が「障害者」の定義を勝手に決めていたことがある。

厚労省のガイドラインは、雇用率に算入できるのを「障害者手帳を持つ」か「指定医の診断書で障害が認められた」人に限っている。それなのに、国税庁は内臓に機能障害がある人や糖尿病の人も障害者に数えていた。国土交通省も省内の健康診断で本人に断りなく振り分けていた。手帳の期限が切れた人、すでに死亡した人をカウントしていた省庁もあった。いずれも「雇用率達成ありき」の意図が透けている。

【厚労省分割案も】

「手帳を確認していない例がある。適正か」。今年5月、そんな財務省の厚労省に対する照会を機に一連の不正は発覚した。それでも各省庁は、不正をした理由について、厚労省の通知が「『原則』障害者手帳を持つ人」となっていた点を挙げている。厚労省は、指定医の診断書も認めているために「原則」をつけたというが、各省庁は「手帳がなくてもいい」と拡大解釈していた。さらに各省からは「幅広く解釈できる通知を出した厚労省も悪い」と、厚労省に責任転嫁する声も出ている。

日本障害者協議会の中村敏彦理事は野党の合同ヒアリングで「厚労省通知の拡大解釈など理由にならない」と指摘し、民間の努力に水を差さないよう求めた。一方、「各省庁の報告人数の裏取りなど不可能」と開き直る厚労省にも、「各省のペーパーをうのみにするだけではだめだ」(日本盲人会連合)との批判が寄せられている。

政府は19年末までに法定雇用率を達成する、という。それには水増し分に見合う障害者の雇用が必要となる。ただ、財政難の折、非正規雇用が増えかねない。麻生太郎財務相は人材争奪戦になる可能性に触れ「取り合いみたいになれば、別の弊害が出る」と語る。

障害者雇用の水増し問題と前後し、自民党内では厚労省の分割案が取りざたされ始めた。同省は分割案が出るたび、旧厚生・旧労働両省の合併効果に「障害者の就労支援の充実」を挙げ、抵抗してきた。しかし、官僚たちの間で形式主義が横行する実態の前では、そうした主張も色あせて映る。

(吉田啓志『毎日新聞』編集委員、2018年9月14日号)

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