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【憲法を求める人々】中川五郎

佐高信|2018年9月9日4:01PM

「飛んでイスタンブール」の庄野真代が非常勤講師をしている法政大学人間環境学部の講義に呼ばれて、中川はボブ・ディランの話をした。昨年夏のことである。

中川の『ディランと出会い、歌いはじめる』(編集グループSURE)で聞き手をつとめた作家の黒川創は、現法政大総長で本誌編集委員の田中優子と哲学者の鶴見俊輔が対談した時のことを語っている。少し興奮気味に鶴見は、
「田中優子は、大変できるよ! 向き合って対談していても、美人だということをこっちは忘れるよ」
と言ったとか。

そんな話になったので私は中川に、田中が若き日に書いた「浅川マキ論」のコピーを渡した。

「いやぁ、おもしろかった。特に、いかがわしさへの言及がいい」
「受験生ブルース」の歌い手はこう感想をもらした。

ディランについて「彼の声こそが文学」と語り、「いまは歌の力を素直に信じたい」と思っている中川に、安保法制という名の戦争法反対の国会前の集会で歌ってもらったことがある。「一台のリヤカーが立ち向かう」とか、「時代は変わる」といった歌だった。

中川は高校生時代から歌っているが、同志社大には鶴見に憧れて入った。文学部社会学科新聞学専攻。しかし、まもなく鶴見が機動隊導入に抗議して辞めたこともあって、ほとんど行っていない。

「体育実技が週に一回、御所であったから、京都にあそびに行って、御所でサッカーして単位もらったくらい」と中川は前掲書で笑っている。

また、やわらかな笑顔が実に似合うのである。苦悩も笑いにしてしまうしなやかさが中川にはある。

中川のパートナーとなった青木ともこというひとがいる。ピアノやボーカルで中川の歌『25年目のおっぱい』にも参加している。

黒川の問いに答えて、中川は当時のことをこう告白している。
「もちろん音楽大好きな人だったんだけど、彼女はCBSソニーというレコード会社に勤めてて、そこで知り合った。せっかくそんな大きな会社に就職してたのに、ぼくと一緒になるというので、やめた。それで一緒に歌やろうよと、ぼくがだましたような感じで、彼女も自分ではやろうとしたし、実際やってたんだけど、あんまりうまくいかなかった」

黒川がさらに、
「なんでCBSソニーをやめたんですか?」
と尋ねると、中川はサラッと、
「ぼくに希望を見たんじゃないですか(笑)」
と言ってのける。

思わず私は笑ってしまった。

中川には『また恋をしてしまったぼく』というアルバムもあるが、浮気している自分のことを正直に歌にしたい思いがあるのである。

しかし、そうすると、現実にいろいろ大変なことが待ち受ける結果になる。『そしてぼくはひとりになる』も、当然と言えば当然の軌跡だった。

檀一雄の『火宅の人』は中川にとってはバイブルのようなものだという。

「もちろん檀一雄のやってることはひどいし、時代も時代だけどね。あんなふうに女の人をだましたり、ひどい仕打ちをしても、最後には奥さんのもとに帰れるわけで、ああ、ぼくも大丈夫かななんて思ったのが失敗でしたね(笑)」

俳優の加藤嘉がポルノ映画には出ても戦争映画には出なかったというのを思い出させる話である。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、2018年8月3日号。画/いわほり けん)

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