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消えたTBS「警察24時」撮影映像 
鹿児島県警による制圧死事件

宮下正昭|2018年8月7日11:45AM

「取材映像にだんまりを決め込むTBS」と詳報した6月29日発売『週刊金曜日』(撮影/編集部)

鹿児島市の繁華街で酔っ払った男性を警察官らが取り押さえ、死亡させた事件で、その一部始終をTBSテレビの「警察24時」が撮影していたが、映像は警察が押収。そのことについて関与を明らかにしてこなかったTBSが新聞などの取材で関与を認めた。しかし、その貴重な映像は現在どうなっているのか。全国でまま起こっている警察官による制圧死を根絶させるために、放送局として活用しない手はない。

「だんまりを決め込むTBS」と本誌が6月29日号で詳報した後、『毎日新聞』が7月5日付で「撮影したTBS 映像を放送せず」と特集記事を掲載した。早速、同日夜のTBSラジオで「荻上チキSession―22」も取り上げた。翌6日付で『朝日新聞』も報じた。ネットでも話題になった。こうしたなかTBSはようやく11日、共同通信と『朝日新聞』の取材で初めて関与を認める。

その後の『読売新聞』を含めた記事を総合すると、事件のあった2013年11月、TBSから委託をうけた制作会社は鹿児島県警から映像の任意提出を求められたが拒否。翌14年1月、差し押さえ令状に基づいて押収された。TBSとしては映像の著作権、所有権がないため、遺憾ながらも抗議はしなかったという。

映像を放送しなかったことについては、警察の違法行為が解明されない事態だったら報道機関として看過できないが、今回は捜査の結果、2人の警察官が有罪判決を受けたことを理由に挙げていた。

しかし、制作会社の社長は筆者の最初の取材申し入れに「著作権はTBSにもあるのでTBSも同席する」と電話で答えていた。また、放送しなかった理由に司法の結果が出たことを挙げたということは、映像は手元にあることになる。

押収された映像はすでに返却されているはずだ。偶然とは言え、年に1回程度起こっている(詳しくは6月29日号)警察官による制圧死の生々しい様子を捕らえた映像だ。警鐘を鳴らすためにも、映像を放送に活用することは考えられないだろうか。そのことをあらためてTBSテレビ社長室広報部に問い合わせたが、まともな返答はもらえなかった。

【警鐘鳴らす映像】

今回の制圧死事件は、かなり酔っていた会社員男性を当初5人で、その後4人の警察官で取り押さえていた5分間ほどの出来事だった。うつ伏せにした男性の背中と腰の辺りを2人の警察官が膝で圧力をかけ続けた結果、窒息状態になり、低酸素脳症に陥って亡くなった。「痛い」「死ぬ」などと叫んでいた男性は、最後に「うーん」とうめく。この時点で制圧を解いていたら助かったかもしれないと県警の鑑定医は検察官に供述している。

しかし、警察官らは男性が脱糞した臭いに気づいて、呼吸を調べる。寝息のようにも思ったらしいが、ここでようやく制圧を中止する。救急車が到着したときには、すでに心肺停止状態だった。

実はこの事件の半年前、鹿児島県警は制圧時の窒息死を防止するための注意を各署に伝達していた。今回の制圧に加わった5人中少なくとも4人はその通知を読んだと検察の調べに供述していた。それでも事件は起こった。

さらに制圧の様子を近くで見ていた女性が「あんまり押さえ過ぎないで。息ができなくなるかもしれない」と警察官らに注意する声も、少なくとも2人は聞こえていたと供述していた。それでも男性を死に至らしめた。

このような最悪の事態に警察官ら自身、衝撃を受けていることは供述調書からもみてとれる。TBSが今も持っているかもしれない映像は、二度とこのような悲惨な事件が起こらないために生かすことができるはずだ。警察密着番組を放送する他のテレビ局も今回の問題に関心をもち、TBSを励ましてほしい。

(宮下正昭・鹿児島大学准教授、2018年7月27日号)

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