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リニア新駅建設で創業70年老舗市場がやむなく閉店/名古屋市

井澤宏明|2018年6月29日12:59PM

最終日の営業をほぼ終え、記念写真に収まる椿魚市場の人たち。(撮影/井澤宏明)

JR名古屋駅西口近くで戦後約70年にわたり市民に愛されてきた「椿魚市場」(名古屋市中村区)が5月末、営業を終えた。JR東海が進めるリニア中央新幹線の名古屋新駅建設のため、立ち退かざるを得なくなったからだ。

最後まで営業したのは、マグロ専門店や小魚、タコやイカ、カニを扱う店など7店。「長い間ありがとうございました」「体に気を付けてね」。場内には、店員と客が互いを労わり合う声が飛び交った。

戦後、椿神社周辺の露店からスタートした同市場。1950年ごろには、神社向いの約500平方メートルの敷地に木造バラックの市場が建ち、30店余りが入った。

東海道新幹線の開業(64年)に伴う区画整理で3分の2になった敷地に、鉄骨造りのビルが完成したのは67年のことだ。

親子2代続く店も多く、家族同然の付き合いを続けてきた。トラックが来れば皆で魚介を降ろす。リニア予定地にかかるのは市場のほんの一角。残った土地で商売を続けたいという人もいたが、高齢の店主が多いため土地を売って7店とも店を畳むことを決めた。

「魚富」の橋本博さん(84歳)は17歳からこの市場で働いてきた。「65年もやった商売やで、ぱっとやめよと言われても寂しい」とこぼす。リニアについて問うと、「我々高齢者には何の魅力もないな。忙しい人はいいだろうけど、新幹線でも速すぎるぐらいだもんね」。

長男の隆夫さん(55歳)は「仕方がないですよね。サラリーマンの方でもリストラや倒産はあるので」と穏やかな表情。6月から、別の市場でアルバイトをしながら、得意先への配達を続けている。

新駅工事で立ち退き対象となる地権者は駅東西の約120人。「1日でも長くおりたい」と立ち退きに応じていない家もある。椿神社の一部も予定地にかかり社殿を移転する必要があるが、関係者によると、結論は出ていないという。

(井澤宏明・ジャーナリスト、2018年6月15日号)

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