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「お手盛り」で地方議員の年金復活の動き 国会議員年金再興の思惑のぞく

2018年2月20日1:07PM

「特権」との批判を受け、地方議員の年金は2011年に廃止されている。それがここへきて、与党内で「復活」の動きが活発になってきた。開会中の通常国会への関連法案提出を目指している。

名目は「人材の確保」。ただ、自民党内には06年に廃止となった国会議員年金の再興につなげる思惑もちらつく。「お手盛り」としか言いようのないふるまいだ。

自民、公明両党が地方議員の年金復活で足並みをそろえたのは、昨年12月6日の与党幹事長・国会対策委員長会談の場。19年春の統一地方選を念頭に、自民党の森山裕国対委員長が「引退後の生活にある程度の担保がないと、地方議員のなり手がいなくなる」と訴え、公明党の井上義久幹事長も「31道県、324市区、675町村議会から意見書が出ている。検討していきたい」と応じた。

かつての地方議員年金は、現職の掛け金と自治体の負担金で運営され、12年在籍すれば公的年金に上乗せして支給された。だが議員の減少で財政難に陥り、「議員特権の象徴」との批判も浴びて11年に廃止された。今は専業の議員なら国民年金(満額で月約6万5000円)しか入れない。それでも、さすがに与党も議員独自の制度復活は無理と考えたようで、ひねり出したのは、自治体職員らが入る厚生年金に地方議員も加入させる案だった。職員同様、議員も自治体に雇われているとみなす。

地方議員のなり手不足が深刻なのは間違いない。16年の平均月額報酬は市議が41万円、町村議は21万円。15年の統一地方選町村議会選は21・8%が無投票当選だった。

ただし、与党が地方議員の人材確保に躍起なのは、系列の地方議員に自らの集票を担当させている国会議員が多いという裏事情もある。地方議員のなり手がいないというなら、会社員との兼務をしやすい仕組み作りなど、先にやるべき対策はある。国民年金だけで生活できないというなら、上乗せの国民年金基金などに加入すればいい。

地方議員を厚生年金に加入させると、保険料を折半する自治体の税負担が約200億円に上るとの試算もある。廃止で新規加入はできなくなったとはいえ、加入歴のある元地方議員ら約4万4000人には、月平均8万円程度の上乗せ支給が続いている。先進国で地方議員の年金を制度化しているところはほぼないといい、行革を看板にする日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は「政治家の優遇でしかない」と批判している。共産党も復活には慎重だ。

【「人材確保はまやかし」】

「四十数人だか、国会議員OBで生活保護を受けている方がいる。ホームレスになった人もいる」

昨年11月14日の自民党総務会。竹下亘総務会長は地方議員年金の復活を語るなかで、国会議員を辞めた人の老後の苦境に触れた。政官界にこの発言が伝わるや「地方議員の次は、国会議員年金の復活か」との臆測を呼んだ。

国会議員年金は10年加入すればよく、老後には月33万円以上給付されていた。厚遇に批判が高まり、06年に廃止されたものの、17年度もOBや遺族757人に、1人あたり月約23万円が支給されている。財源はほぼ全額税金だ。

公的年金は、年金額の伸びを物価より抑える減額の仕組みが強化されるなど、近年は抑制策が相次ぐ。1月30日の衆院予算委員会で、日本維新の会の馬場伸幸幹事長は「議員年金復活で人材確保というのはまやかし」と断じたうえで、「1400万人の国民年金で細々と生活をしている受給者のための改革を後にして、先に数万人の地方議員年金の設計を熱心にすることに本当に理解が得られるのか」と質した。

これに対し、安倍晋三首相は「地方議員の身分の根幹にかかわること。国民の皆様、議員の声をよく聞きながら、各党各会派において検討がなされる必要がある」とかわすことに終始した。馬場氏が「まさか国会議員の年金も復活させることはないでしょうね」と畳みかけても、ほぼ同じ発言を繰り返すだけだった。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年2月9日号)

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