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トランプと安倍がゴルフに興じた日に 吉永小百合が見せた孤高の反骨

2017年11月29日12:20PM

「結婚していてもしていなくても、長生きすれば、最後はみんなひとりになる」と書いたのは社会学者の上野千鶴子である。

11月5日日曜日の昼下り、東京都江東区・夢の島公園のはずれにある「第五福竜丸展示館」に、大スター・吉永小百合(72歳)はいた。

トランプ大統領が米軍横田基地に直接着陸し安倍首相とゴルフに興じた、まさにその日、吉永は、第五福竜丸建造70周年記念の「この船を描こう 森の福竜丸~男鹿和雄と子どもたちの絵」展のオープニングイベントに現れたのだ。狙い澄ました一撃を加えるかのような来訪は9年ぶりだったという。

トランプ大統領は日本上陸前の3日に「リメンバー・パールハーバー」とツイートしたが、吉永小百合は「広島や長崎、福島、そして第五福竜丸・福島を忘れない――」とトランプ大統領に反論して、数少ない参加者を前にして静かに、だが凜として“核廃絶”を訴えたのだった。

事実、吉永小百合は、広島の原爆の悲惨さを訴える原爆詩の朗読会を繰り返し開いてきている。これまでも私は、人にまぎれて第五福竜丸展示館で、彼女の原爆詩の“読み聞かせ”を聴いてきている。

さらに吉永は「米国大統領には、ノーベル平和賞を受賞した人が……」とオバマ前大統領についても暗に触れ、トランプと安倍の核廃絶への後ろ向きな態度を、俳優らしく言葉を選びながら、深いため息をもらしつつ、嘆いた。「第五福竜丸」の絵を描いた20人の子ども達と記念写真撮影にも、吉永は控えめに立ち、静かに微笑んでいた。

私は、遠目に吉永小百合を見ながら、「独りぼっちで抗っている!!」と、思わず独り言を呟いた。

【孤独を恐れず】

そもそも第五福竜丸が展示されたきっかけは新聞の読者欄に打ち捨てられていた第五福竜丸について投稿が掲載されたことだ。マグロ漁船第五福竜丸は1954年に米国の水爆実験による死の灰で23人の乗組員全員が被曝させられた。さまざまな問題に直面しながらも第五福竜丸は展示されなんとか保存されている。

私の故郷、静岡県掛川市は第五福竜丸の拠点港だった焼津港と近く、水爆犠牲者としてシンボル化された久保山愛吉さんの娘さんが同じ齢ということもあり、小学生の頃からなにかと近しい存在であった。事実、私の初小説集『散骨』(光文社刊)も打ち捨てられていた第五福竜丸が舞台の一つ。執筆当時には現・第五福竜丸平和協会事務局長の安田和也と何度も会い、安田からは「エロでもいいんです、第五福竜丸に触れてくれるのなら……」と小説化について快諾をいただいてもいる。

吉永小百合が若かりし頃に主演した映画『キューポラのある街』は、在日朝鮮人の北朝鮮帰国問題なども扱われていて、われわれ団塊世代にとって衝撃的な作品であった。吉永小百合も、持って生まれた“純情”と“反抗力”を上手に使いわけて、俳優を続けてきた。事実、反権力映画であったとしても、相手役には常にメジャーな俳優を選んでいる。私に言わせれば、「独りぼっちの抗う精神」は、独りぼっちでは成就はできない。

私は今の吉永小百合が好きだ!!だって、今の日本に他に代わる人がいないのだから。吉永は独りぼっちを、孤独を、恐れてはいない。(文中一部敬称略)

(高須基仁・出版プロデューサー、11月17日号)

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