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政府の漁業「規制改革」に沿岸漁業者らが危機感

2017年9月29日11:32AM

漁業の「規制緩和」へ疑問を呈する鈴木教授。(撮影/まさのあつこ)

9月1日にフォーラム「規制改革会議と漁業権を考える」(JCFU全国沿岸漁民連絡協議会とNPO法人21世紀の水産を考える会の共催)が開催された。

参議院の講堂は大漁旗とともに全国各地の沿岸漁業者を中心にほぼ満席となった。日本の漁業は漁民全体の96%を占める小規模沿岸漁業就業者が支えている。にもかかわらず、内閣府の規制改革推進会議(議長=大田弘子・政策研究大学院大学教授)は5月に開催した農業ワーキング・グループ(WG)で、日本の漁業就業者1人当たりの生産量や漁船1隻当たりの漁業生産量は諸外国と比べて低いという認識に立ち、漁業の効率化や規制緩和に向けた議論を始めている。

「漁業の専門家が1人もいない会議だ」「今、沿岸漁業者の声を集めて国に届けなければ」との危機感を背景にした集会となった。

前半は、「半農半漁の家の息子です」と自己紹介した東京大学大学院の鈴木宣弘教授(国際環境経済学)が、「亡国の漁業権開放論」と題して講演を行なった。

鈴木教授は「漁業権の開放には強い違和感を抱く」「(WGは)日本漁業が衰退したのは非効率な家族経営体が公共物の浜を勝手に占有している、既得権益化した漁業権を規制緩和し、資金力のある企業経営体に参入させろという。だが、今までの『規制緩和』や『国家戦略特区』の実態は『特定の企業への便益供与』であり『国家私物化』だ」と猛批判。規制改革会議メンバーが自身の関係企業に利益誘導して利益相反を引き起こしているとして、誰でも分かるイニシャルトークでM(宮内義彦オリックス元会長)、T(竹中平蔵・パソナ取締役会長)、N(新浪剛史ローソン元会長)の例を挙げた。

「規制撤廃して個々が自己利益を追求すれば、社会全体の利益が最大化されるという論理の適用は論外だ」(鈴木教授)。

【各地の沿岸漁民の現状】

後半は全国から「各地の沿岸漁民の生活と権利をめぐる諸問題」が報告された。

福島大学の林薫平准教授(経済経営学)は、原発事故以来、福島の沿岸漁業はいまだに全面自粛が続いていると報告。事故直後は大気中から海洋への降下、河川を通じた海洋への流出、原発から直接の漏洩による汚染経路が、そして、現在は処理済みの低濃度の汚染水の放出問題が収束していないとする一方、漁業再開を目指して注意深く進めている試験操業への理解を訴えた。

宮城県からは「東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターの綱島不二雄代表世話人が、2011年5月に村井嘉浩知事が「水産業復興特区」の導入を提案し、漁民からの1万4000の反対署名にもかかわらず、12年に合同会社が設立されたが、検証作業が必要だと訴えた。岩手県からは、100人の零細漁民が、サケの定置網漁を漁協に独占させ、零細漁民には禁じている岩手県を相手取って行政訴訟を提起していると澤藤大河弁護士が報告。「漁獲高は無制限である必要はなく各漁民につき年間10トンを上限として固定式刺し網によるサケ漁を認めよ」という裁判だという。

和歌山県からは、東漁協が、カツオの来遊量が極端に減った原因は、熱帯域での大規模まき網による乱獲である可能性が高いと報告。長崎県対馬市の曳縄漁業連絡協議会の宇津井千可志会長は、クロマグロの保護政策で漁獲が制限され、漁家経営が困難である一方、逆にその数が増えたことで、イカ、タイ、ブリ漁など島内水産業の存続が危ぶまれると報告した。

その他、北海道留萌海区漁業調整委員会、千葉県沿岸小型漁船漁業組合などからも報告が行なわれた。また、諫早湾干拓事業の潮受堤防の開門調査がいまだに実施されていない現状を「よみがえれ!有明訴訟弁護団」の堀良一弁護士が報告した。

JCFU全国沿岸漁民連絡協議会では、前日に政府に対してこうした実態を要望書にまとめて提出、「施策に反映」してほしいと訴えた。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、9月15日号)

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