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中山義隆・石垣市長に不正出張とマンション“購入”疑惑

2017年7月11日7:07PM

防衛省が陸上自衛隊の配備をもくろむ南西諸島の1つ沖縄・石垣島。2015年に配備計画が正式発表されて以降も全容は明らかにされていないが、中山義隆市長は昨年12月、突如として事実上の配備“受け入れ”を表明した。この中山氏をめぐり、不正な出張やマンション“購入”など疑惑が相次ぎ浮上している。

市民が情報開示請求し、石垣市が公開した中山市長の出張費についての資料。不自然な墨塗りが目立つ。(撮影/『週刊金曜日』取材班)

石垣市で農業に従事する男性は昨年10月5日、墨塗りにされた2枚の資料(写真参照)を市から受け取り当惑した。「平成28年度一般会計当初予算(歳出)内示書」と題された資料は約90項目が墨塗りで、かろうじて「秘書費」「旅費」「普通旅費」「3,405」(編注、340万5000円)などの文字が読める。男性は昨年9月21日、中山義隆石垣市長が初当選した2010年から現在までの出張日程の内訳や費用などについて、市に開示請求をした。ところが、出張費に係るとされる資料が墨塗りで出されたのだ。出張日程については14枚に、目的などの一覧が記されていた。

地元紙『八重山毎日新聞』の「市長日程」をもとに本誌取材班が調べたところ、昨年1月から7月までに出張は最低でも30回、宿泊日数はさらに増えることがわかった。現地では中山氏の“出張過多”に批判がある。こうした背景から男性は開示請求を行なった。
「当然開示されるべき資料のはずなのに墨塗りで、『これは一体、何なのか』と驚きました。しかも10年からの内訳を請求したのに、昨年(平成28年)度の資料のみというズサンな対応だった」(男性)。

全国市民オンブズマン連絡会議事務局長の新海聡弁護士は、「墨塗り資料は公務員の公務に関する情報であり、基本的に不開示にする理由はない」と指摘する。

条例無視で“情報隠蔽”か

6月11日の住民説明会後、取材に応じる中山義隆石垣市長。(提供/猪股哲)

男性は今年1月4日、正確な情報の開示を求めて「情報公開に係る審査請求書」を市側に提出した。だが半年近くも明確な反応がないことから、6月6日には市の情報公開及び個人情報保護審査会に対し、結果を公表するよう「意見書」を提出している。市を取材すると、「近々、審査会を開く考えはある」(総務部総務課法制係担当者)とした。同担当によると、出張費の文書を墨塗りにしたのは「秘書係」だという。

通常、市民から審査請求が出された場合には、該当者は審査会に意見を求める(諮問する)必要がある。石垣市情報公開条例にも「諮問しなければならない」と定められている。しかし、市の同担当は、「審査会に対して中山市長からの諮問はない」とした。前出の新海弁護士は、「市長は第三者委員会に意見を求める義務があり、諮問をしていないのは大問題。条例を無視、またはあえて諮問を遅らせているのなら、情報隠蔽の疑いを持たれても仕方ない」と話した。

出張日程も曖昧だ。昨年10月に公開された出張一覧とは別に、市側は今年5月末、13年からの出張日程と費用に関する約150枚の資料を男性に突然公開した。だが男性は「昨年度の出張について、昨年10月の出張一覧にないものが今年5月末の資料にはあったり、その逆もある。不備が多く正確な資料でない」としている。

秘書係(企画部企画政策課)の棚原輝幸係長にこれを問うと、「取材への回答は差し控えるよう、市の顧問弁護士のほうから言われています」とした。市の顧問弁護士とは、「弁護士法人那覇綜合」(所在地は沖縄・那覇)所属の伊東幸太朗氏で、この法律事務所は自民党の宮﨑政久衆院議員が代表を務めている。同事務所に電話をしたが、校了日の6月20日までに連絡が付かなかった。

選挙中にマンション購入?

中山氏の疑惑はほかにもある。中山氏が本人名義で14年と15年に “購入”したとされる高級分譲マンション2部屋についてだ。契約の成立時期に不自然な点がある。

市が公開する「石垣市長資産等報告書」によると、中山氏は東京・東日本橋と那覇市内にマンションの一室を所有している。

登記を調べると、14年2月26日に売買された東日本橋の「コノエ東日本橋」の建物は、「コノエ・プレミアシリーズ」と呼ばれるアパグループの高級マンションで、アパホーム株式会社が所有者とある。15年10月18日に売買された那覇市内の「RYU:X TOWER The EAST」は、大和ハウス工業株式会社やオリックス不動産株式会社などが所有者だ。

アパグループは13年11月下旬に石垣島にホテルをオープン。大和ハウス工業は06年頃に同市内の米原地区でリゾート化を企てたが、住民らの反対などで計画は進んでいない。オリックスはレンタカーなどの業種に参入して久しく、いずれも島の経済に関わりがある。

マンションを“購入”した時期について、地元関係者はこう語る。

「14年に実施された石垣市長選挙の告示日は2月23日。投開票日は3月2日でした。もっとも忙しく、おそらく資金も必要な選挙期間中の26日に、マンションを購入するなんて不自然です。さらに、15年11月26日に防衛省の若宮健嗣副大臣が市を訪れ、陸上自衛隊配備を中山市長に正式に打診したという事実がある。第2のマンション購入はその直前です」

これまでの中山氏の資産はどうか。給与所得、貸付金、借入金など、いずれも目立った変動は確認できなかった。前出の新海弁護士は「少なくとも“贈与”の疑惑はもたれる」とし、「市長は経緯を説明する必要がある」とした。中山氏本人にも取材を試みたが、棚原係長は「プライベートなことなので取材は受けていない」とした。

自衛隊駐屯地、候補地近接の4集落は激怒

中山氏が事実上の“受け入れ”を表明した陸自配備計画に対しては、現地から疑問や怒りの声が噴出している。

防衛省は6月11日、約4万8000人の市民を対象とする住民説明会を開催した。しかし参加者は200人ほど。場外では説明会のボイコットを訴える住民がおり、場内では参加者から指摘された問題点に、担当職員が「仮定の話に答えるのは難しい」などと回答をはぐらかす場面もあった。

15年11月26日、若宮防衛副大臣は石垣市を訪れて中山氏と面会。このとき、配備候補地を平得大俣(ひらえおおまた)地区とした。第2次世界大戦の前後を通じて、沖縄本島や四国、台湾など各地から移住してきた人々が、汗と血と涙を流し切り拓いた一帯である。候補地に近接する4つの集落は当初から「配備反対」を表明してきた。だが各集落代表と面談をしてから受け入れについて決めるとしていた中山氏は、これを反故にして事実上の“受け入れ”を表明したのだ。

今年5月17日に突然、防衛省は駐屯地の図面を発表した。弾薬庫4棟のほか射撃場などの危険な施設が描かれるが、民家との距離は1本の道路を隔てただけだ。各集落の代表らは6月6日の会見で、行政側を猛批判した。ある住民はこう説明する。

「市民対象の説明会が告知される以前に、防衛省は各集落での説明会を予定していました。しかしその打診は代表者への電話だけ。私たちは趣旨や日程調整を文書でしてほしいと伝えたが、その後連絡はなかった」

候補地に近い嵩田(たけだ)地区で生まれ育った花谷史郎さん(35歳、農業)は、計画の白紙撤回を求める1人だ。駐屯地の騒音や照明、汚染水などが人体や作物に与える影響を危惧する。景観破壊や交通量の激増なども不安材料だ。花谷さんはこう語る。

「このあたりの農村は後継者も育ち、行政の補助に依存してこなかった。穏やかな風景も自慢です。沖縄での本格的なパイナップル生産もこの一帯から始まった。今はマンゴーやゴーヤー栽培なども盛んです。私たちの聖地。軍事基地は不要です」

(『週刊金曜日』取材班、6月23日号を一部修正)

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