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骨太方針は安倍政権お得意の“目くらまし”(鷲尾香一)

2017年7月3日7:15PM

安倍晋三政権は6月9日、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(通称、骨太方針)を閣議決定した。

驚くべきは、経済・財政一体改革の進捗・推進の中において、経済・財政一体改革の着実な推進として「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、引き続き600兆円経済(GDP:国内総生産)の実現と2020年度(平成32年度)の財政健全化目標の達成の双方の実現を目指す――と盛り込まれたことである。

安倍政権お得意の“目くらまし”と言わざるを得ない。

従来の財政健全化計画(経済・財政再生計画)では「国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2020年度までに黒字化、その後、債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す」と目標が掲げられていた。

しかし、今回の骨太方針では、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化の達成と同時に債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指すことになり、債務残高対GDP比の安定的な引き下げの重要性が増し、財政健全化の目標が厳格化したように見える。

だが、PBの黒字化達成よりも、債務残高対GDP比の安定的な引き下げの方がはるかに実現しやすい目標であり、20年度までPBの黒字化が達成できなくとも、債務残高対GDP比の安定的な引き下げは達成可能なため、政府にとっては言い逃れしやすい目標になっている。

つまり一見、財政健全化目標が厳格化したように見えて、その実、安易な達成目標が格上げされたという“目くらまし”なのだ。

「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」 は、どこまで引き下げるのか、という具体的な数値が明示されておらず、引き下げが実現されていれば、PBの黒字化より、はるかにハードルが低い。

たとえば内閣府の試算では、名目GDPが3%程度の平均成長率を前提とした経済再生ケースで、PBの黒字化は25年度までかかる見通しとなり、財政目標には到達しない。しかし、PBの黒字化に届かない状態においても、債務残高対GDP比の引き下げは続く。

もともと名目GDP600兆円の経済目標は、名目GDPで3.45%の成長が継続することを前提としているが、名目GDPで3%以上の成長、物価変動などを除く実質GDPで2%以上の成長が続けば、債務残高対GDP比は低下する。

もっとも16年度の実質GDP成長率が1.6%にとどまっており、“より達成しやすい財政健全化目標”の「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」すら、現状では、達成が困難な状況だ。

しかし、ここにも“抜け道”がある。政府の公表している債務残高はその含める債務の範囲によって定義が複数存在し、今回の目標対象となる「債務残高」について具体的に定義はなされていない。その定義次第では、GDP成長率が低成長で「債務残高対GDP比の低下」は達成可能なのだ。

そして、もっとも警戒しなければならないのは、PBの黒字化よりも達成可能な目標ができたことにより、財政規律が緩む可能性があることだ。つまり、財政拡張路線へと変更するための“目くらまし”だ。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト。6月16日号)

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