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【「香害」最前線】
ユニリーバ
「企業秘密」の香料 成分を公表 

2017年5月26日4:23PM

前回は新型タバコによる「香害」を取り上げた、この不定期連載。発売中の『香害 そのニオイから身を守るには』ではメーカーの倫理を問うたが、世界的な企業、ユニリーバが香料成分を公表することがわかった。

※このシリーズは問答形式にしました

――ユニリーバという世界的な企業が「香料」の成分を公表すると聞きました。
ユニリーバは、食品・洗剤・シャンプー・化粧品などを製造・販売する多国籍企業です。オランダとイギリスに本拠を置き、日本を含む190カ国以上に子会社などを持っています。
紅茶の「リプトン」、男性用化粧品の「AXE」、スキンケア・ヘアケア製品の「Dove」などのブランドが広く知られています。
そのアメリカ法人(ユニリーバ・アメリカ)が今年2月、自社のパーソナルケア製品(身体用洗浄剤)の成分をこれまで以上に詳細に開示すると発表しました(注1)。アメリカ国内の法令が求めている基準を超えた措置です。

――具体的には?
二つあります。一つは、アメリカの大手食品・飲料・消費財メーカーが参加している「スマートラベル」(SmartLabel)を通じた方法です。
このウェブサイトは食品や消費財の含有成分を消費者が閲覧できる仕組みになっており、ユニリーバは約1800品目の成分を開示済みでした。香料については「香料」と表示するだけだったのを、含有量が0・01%(100ppm)以上の香料は成分を開示することにしました(年内に始め、2018年末完了をめざしているが、4月上旬時点ではまだ開示されていない)。
もう一つは、自社のサイトに「当社製品には何が入っているか」(What’s in our Products)というセッションを設けたこと。原材料成分やよくある質問への回答などを掲載します。
これに加え、欧州連合(EU)が表示を義務づけている香料(アレルギーの原因物質〈アレルゲン〉になるもの)は、すべての製品のラベルに記載することにしました。
香料は複数、ときには数十もの成分(物質)がブレンドされた混合物ですが、日本を含めどの国でも個々の物質名は「企業秘密」として公表されていません。その壁に風穴が開けられたわけです。
ユニリーバの研究開発部門の責任者は「今回の取り組みは、商品選択に必要な情報を消費者に十分に提供するという当社の方針を実現したもの」と述べています。

――消費者にはどんなメリットがありますか。
表示された成分の中に体調不良をもたらすものがあれば、その製品を避けることができます。物質名がわかれば、かりにその製品で体調不良などが起きたとき、原因究明もしやすくなります。

――物質名がわかっても、多くの消費者にはどんな性質のものか理解できないのではないですか。
たしかにそういう面はあり、化学物質過敏症(CS)の人にとって重要なのは、成分名の表示ではなく、香料が一切含まれていないことではないかと安間武さん(化学物質問題市民研究会)は言っています。
しかし、香料の使用が禁止されていない現状では、開示のメリットは少なくないと、CS患者で薬剤師の藤井淑枝さんはみています。
――それにしても、企業秘密の壁に風穴が開けられたのは画期的です。
ほんの2~3年前まで消費者団体が香料の成分開示を製品メーカーに求めても、「そんなことは香料メーカーが認めない」と、けんもほろろでした。
それがなぜ変わったのか。技術進歩によって香料の成分構成がさほど重要な秘密ではなくなったことが背景にあるようです。さらにユニリーバが香料を大量に利用する大口ユーザーなので、香料メーカー側も多少の無理はききいれたのでしょう。

――ユニリーバの新方針が実施されたのはアメリカだけですか。
アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツを皮切りに、ほかのヨーロッパ諸国でも同様のサービスを計画しているとのことです。

――日本はどうなっているのですか。
日本法人のユニリーバ・ジャパンに取材を申し込んだところ、コーポレート・コミュニケーション担当の伊藤征慶さんから電話で次のような回答がありました。
「日本では法令を遵守して表示しており、現時点では先行している欧米の取り組みを注目している」。日本が対象になっていないのは日本の消費者を軽視している表れでは、との問いには「そんなわけではない」。ではなぜ開示しないのか、との問いには「……」。

――ユニリーバの新方針を受けた動きも出ているようです。
ユニリーバの発表の翌日、アメリカ・カリフォルニア州議会に、洗剤など清掃用品(家庭用・業務用)の成分を公表させる法案が提出されました。清掃用品メーカーに、香料を構成する物質を含む全成分をラベルとオンラインで開示するよう義務づける内容です。これが成立すれば消費者も清掃業者も、十分な情報に基づく商品の選択ができるようになる、と提案した上院議員は語っています。
また「地球のための女性の声」というNPOは、ユニリーバの決定を歓迎するとともに、残された課題として①0・01%より少ない成分の開示、②対象地域の世界全域への拡大、③スマートフォンやパソコンを持っていない消費者でも情報を得られるようにする、の三つを挙げました。そして、ユニリーバの決定は同業他社への圧力になるだろうとみています。
一方、「環境ワーキング・グループ(EWG)」というNPOは、ほかのパーソナルケア製品メーカーにユニリーバに追随して香料成分を開示するよう求める署名運動を始めました。
EWGは追随を求める有力メーカーとして、エイボン、シャネル、ジョンソン&ジョンソン、メアリーケイなど26社を挙げており、日本の花王も含まれています。

――花王の対応が注目されます。
花王に対応を取材したいと申し込んだところ、広報部の青山佳樹さんから電話で以下のような回答がありました。
「化粧品の成分は法令に基づき全成分を表示するが、香料については日本化粧品工業連合会の自主基準に基づいて『香料』とまとめて表示している。表示は業界団体として足並みをそろえてやっているから、1社で決められる問題ではない」
ユニリーバは単独で法令を上回る開示を始めたではないか、との問いに「ユニリーバ・アメリカも『スマートラベル』で実施している。香りをつけた製品については『無香料』の製品も用意し、ご希望の方にはそちらを選んでいただけるようにしている」。
――香りを好む人たちが香りつき製品を使い、ニオイを振りまいて、化学物質に敏感な人たちが被害を受けているのが現実ですから、無香料製品を併売してもほとんど意味がありません。またユニリーバ・ジャパン、花王とも、単独で独自の表示をするのは難しいと言っています。
この国の業界の多くは、監督官庁と業界団体を中心とする「ムラ社会」であるようにみえます。表示でも抜けがけはしないのでしょう。
日本では官庁は消費者より業界優先だし、市民運動も欧米ほど強くはありません。メーカーも積極的ではないので、外圧でもないと、消費者の役に立つ詳しい情報が開示されるようにはならないのかもしれません(注2)。

(注1)ユニリーバ・アメリカは食品とパーソナルケア製品を主に販売しているが、EU域内のユニリーバは洗剤などの家庭用品も販売しており、家庭用品も成分開示の対象にしている。またEUが表示を義務づけた香料成分を含む製品は、その成分名をすでに開示している。

(注2)洗剤・洗浄剤の商品選びに役立つ明快な表示法改正を求める運動が1990年代に展開されたが、結局は業界の思惑に沿った改定となった。
おかだ もとはる・ジャーナリスト。『香害そのニオイから身を守るには』(金曜日)が発売中。

 

(2017年5月26日号に掲載)

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