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グリホサートが
妊婦や子どもにもたらす
見逃せない健康被害

天笠啓祐|2017年5月19日1:07PM

IARCを共和党議員らが攻撃

同団体の発表によると、調査の対象はインディアナ州の産科婦人科を受診した妊婦で、調査した69人中63人(91%)から、平均で3.44マイクログラム/リットルのグリホサートが検出された。

2015年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校が行なった調査でも、市民の93%から検出されており、この検出の割合が特段高いわけではない。

ポール・ウィンチェスターの2年間にわたる追跡調査で、尿中の濃度の高い妊婦の場合、妊娠期間が短くなり、赤ちゃんの体重が少ない傾向にあることが判明した。

調査結果をまとめた統計データによると、妊娠期間・出生体重ともに「低い相関関係」があった。

また都市部に比べて農村部の女性のほうが、汚染度が高かった。

ポール・ウィンチェスターによると、その赤ちゃんは将来的に、糖尿病、高血圧、心臓病、認知能力の低下、メタボリック・シンドロームになるリスクが高まると指摘している。

グリホサートは1974年に市場に登場してから、世界で940万トンが作物や芝生、庭園に散布されており、日本でも最も使用されている除草剤ラウンドアップの主成分である。

世界的に健康被害の報告が相次ぐ中、それとは逆行するように、3月22日に開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会で、グリホサートの残留基準緩和案が示された(4月21日号本欄で植田武智氏が既報)。

貿易自由化・促進を進める目的でWTO(世界貿易機関)の基準に合わせたもので、現行の残留基準の大幅緩和となる。このところ、さまざまな分野でWTO基準に合わせるケースが増えている。

日本政府による残留基準緩和の動きと並び、米国でも新たな動きがあった。

USDA(農務省)が、EPA(環境保護局)とFDA(食品医薬品局)と共同で、4~8月に、異性化糖のグリホサート残留検査を進めることを文書で明らかにしていた。そのため315検体を購入、グリホサートと代謝産物のAMPA(アミノメチルホスホン酸)の残留検査の準備が整っていたと思われる。しかし、USDAのスポークスマンは「計画は変更された」と述べ、秘かに中止していたことが明らかになった。

さらにこの間、多国籍企業や米国議会共和党議員らによるIARC(国際がん研究機関)への攻撃や、EU(欧州連合)への働きかけが強まっている。これは、IARCがグリホサートを発がん物質に認定したことへの報復と考えられる。

EUの化学専門委員会はこれを受けて、グリホサートは発がん物質ではないと、根拠を示さず結論付けている。

 

(天笠啓祐=あまがさ けいすけ・ジャーナリスト、『週刊金曜日』2017年5月19日号掲載)

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