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ジャカルタ事件の城崎氏、日本での裁判が始まる――公判で揺らぐ検察側証言

2016年10月18日11:27AM

「日本大使館砲撃は赤軍の犯行」と城崎氏実名報道の当時の地元紙。(撮影/浅野健一)

「日本大使館砲撃は赤軍の犯行」と城崎氏実名報道の当時の地元紙。(撮影/浅野健一)

1986年にジャカルタで起きた日米両大使館への手製金属弾発射事件(昨年9月4日号参照)で殺人未遂罪などに問われた城崎勉さんの裁判員裁判が9月21日から11月1日まで東京地裁(辻川靖夫裁判長)で開かれている。21回の公判で、インドネシアのホテル従業員や米連邦捜査局(FBI)の捜査官を含め23人が証言する。

米大使館事件で米国の裁判を受け、98年に有罪となり17年間服役、昨年2月に日本へ送還された城崎さんは「一度も日本赤軍に入ったことはない」と断言している。新聞などが城崎さんを「日本赤軍メンバー」と報じているのは誤報だ。

ジャカルタ事件は、86年5月14日に在ジャカルタの日米両大使館へ金属弾が撃ち込まれ、カナダ大使館前の車が爆破された事件。起訴状によると、城崎さんが「氏名不詳の共犯者」と両事件を起こしたとされている。しかし、この起訴は一事不再理(憲法39条)に反している。また、砲弾が発射されたとされるプレジデントホテル827号室の電気スタンドと飲料缶に残された指紋2点と、ホテルとレンタカー会社従業員の目撃証言以外に証拠はない。

城崎さんは初公判で「まったくのでっち上げです。無罪です」と起訴内容を否定した。弁護団(川村理・上杉崇子・酒田芳人各弁護士)は「城崎さんは事件当時、レバノンにいた。指紋は捏造された可能性があり、目撃証言は信用できない」と主張した。

初公判では、事件当時、通産省(現経産省)から出向して一等書記官だった島田豊彦氏(元・日揮取締役)が「3階にあった経済班の部屋には現地職員も含め12人いた。普通の窓ガラスだったので、命中したら死んでいた」と証言。航空自衛隊から出向し警備責任者の仲山裕司氏(一等空佐、弘済企業株式会社へ再就職)も「人事担当もしたのでわかるが、計画的に信念を持ってやっている方は、塀の中では変わらないので非常に危険」と述べた。弁護団の反対尋問では「(砲撃弾は)花火に毛が生えたようなもの」と説明した。

【記憶が曖昧な証言者たち】

26日(第2回)に出廷したのはホテルのフロント係のパレンティア・アグスタディ氏。彼女は、「キクチ・シンスケ」名義の旅券でチェックインした男性は、「ハンサムだったので覚えている」と証言。事件1週間後に、フロント裏のボードに貼っていた国際手配写真のポスターにあった城崎さんがキクチとよく似ていると上司のアフド・タルミジ氏に話したという。

29日(第4回)は、タルミジ氏が「彼女は『シロサキに似ている』と言ったが、旅券名と違うので取り合わなかった。ところが、6月21日、(地元紙の)『コンパス』に、砲弾の犯人は赤軍のシロサキだと報じているのを読んで驚いた」と証言したが、弁護団の尋問では「彼女の指名手配ポスターのことは、97年に米国でハートマン検事の事情聴取で聞かされて、初めて思い出した」と証言するなど記憶が曖昧。ホテル8階の客室係長だったコマルディ・スカンダ氏は検察官の尋問に、「827号室の客に変圧器を貸し出す際、ドア越しに一瞬、顔を見た。普通の人で、たぶん日本人だと思った」と答えたが、酒田弁護士が尋問で「韓国・中国人と日本人は似ている。なぜ日本人と思ったのか」と聞くと、「30年前のことなので覚えていない」。

30日の第5回公判では、米国経由で届いた指紋写真と警視庁にあった城崎さんの指紋を照合した警視庁鑑識課の松丸隆一副主幹が証言した。その後、ジャカルタ警視庁鑑識課のジョモマルドノ氏が事件翌日の5月15日に電気スタンドの支柱にあった指紋を採取した経緯を証言した。ジョモマルドノ氏が同僚2人と、写真担当のエフェンディ氏と作業したのは5時間。「部屋に入ってすぐにスタンドの支柱に指紋があると分かった。10分で採取した」と述べた。堀内健太郎・左陪席裁判官が「電気スタンド以外の、窓枠、壁、浴室などは調べなかったのか」と聞くと、「自分の分析で、最初からスタンドと決めていた」と答えた。

税金を使い異国から召喚した検察側証人の証言が揺らいでいる。

(浅野健一・ジャーナリスト、10月7日号)

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