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宮古島の配備計画協議書、水源地抵触で撤回、再提出へ――防衛省と下地市長が「工作」か

2016年5月16日10:47AM

「南西防衛」「島しょ防衛」の一環として沖縄県の宮古島に地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊の配備を計画している防衛省は、宮古島市に提出していた配備に関わる協議書を4月1日付で撤回した。建物の配置が島の水源地にかかり、市の条例に基づく市地下水審議会の承認を得られないとみて、計画を見直し、再提出することにした。その裏で、下地敏彦宮古島市長と防衛省側がひそかに通じていた疑いが浮上、国と地方が結託し、配備を強行する図式が見え隠れしている。

防衛省は3月、日本の最西端にある与那国島に艦艇や航空機を監視する沿岸監視隊を発足させたのを皮切りに、鹿児島県の奄美大島、沖縄県の宮古島、石垣島の順にそれぞれ地対艦、地対空ミサイル部隊を新規編制させる計画だ。宮古島へは約700人の配備を見込む。

宮古島の候補地は「大福牧場」と「千代田カントリークラブ(千代田CC)」の2カ所。大福牧場は沖縄大手の建設会社「大米建設」の創業者で、おおさか維新の会の下地幹夫衆院議員の父、故下地米一氏が創業した。

問題は、大福牧場のある福山地区が水の乏しい宮古島の飲料水、農業用水を供給する水源地にあたること。防衛省沖縄防衛局は昨年12月、市条例に基づく協議書を市に提出、部隊配備が地下水に及ぼす影響を審議する市の地下水審議会と専門家による学術部会が3月までに計4回開かれ、非公表ながら方向性は出ていた。

下地市長は7日に会見し、協議書が取り下げられたと発表した際、審議結果の公表を拒否。審議終了後、公開すると市民に約束した議事録も非公開のままだ。

結論が「承認」であれば、防衛省が協議書を取り下げる理由はない。防衛省幹部は「建物が水源地にかかっている。水源地に影響しないよう建物の配置を見直す」と「不承認」を示唆する。仮に「不承認」の結論が公表されていれば、自衛隊配備が市民生活に悪影響を与えることになり、宮古島市への配備は困難になったはずである。そうした事態を回避するための「撤回、再提出」なのだろう。審議会の結論が市当局から伝わっていたと考えるほかない。

【密着ぶり示す文書】

そもそも水資源に影響が出かねない計画自体に問題がある。幹部は「当初、市側から『何とかなる』という感触を得ていた」と宮古島市との密着ぶりを示した。

防衛省と下地市長の関係をうかがわせる陸上幕僚監部作成とされる文書がある。「沖防局企画部長等との懇談に係る発言」(2015年2月3日)の見出しに続き、「沖防局企画部長、沖縄地本長と下地市長による懇談において、市長より『千代田CCを中心に事業を進めてほしい。(略)受け入れの前提として防衛省側から大福牧場のみならず、千代田CCを含めた2箇所を正式に提案する方向で検討してほしい。』と発言」とある。

防衛省出先機関の幹部と会い、市長側から受け入れ条件として大福牧場、千代田CCへの配備を防衛省側からの提案とすることを求めている。「工作」である。

防衛副大臣が宮古島市を訪れ、配備計画を正式に伝えた昨年5月より3カ月も早い。文書には「宮古島市長は自衛隊配置に関し賛成の立場」とあり、これを受けて防衛省は本年度防衛費に用地取得費など108億円を計上した。

下地市長は地元テレビ局の取材に防衛省への働きかけを否定しているが、計画は文書通りに進んだ。大福牧場、千代田CCへの配備は、個人の土地を政府が買い上げることを意味する。水源地と知るはずの市長がなぜ踏み込んで言及したのか、事実とすれば不可解というほかない。

防衛省は協議書を再提出するが、建物の配置を変更すれば、済むという話ではない。市民不在の舞台裏で、市当局や賛成派の市議会議員らと結託しているのは地元では公然の秘密である。市民の信頼を失ったまま配備を強行しても、本来求められる基地の安定使用などできるはずがない。

(半田滋・『東京新聞』論説兼編集委員、4月29日)

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