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「不適切メールで教諭免職」、都教委の控訴棄却――生徒との信頼関係を認定

2016年4月13日6:22PM

男性教諭(手前)らと「都教委は上告しないように」と訴える加藤文也弁護士=2016年3月24日、東京・霞が関の東京高裁。(撮影/池添徳明)

男性教諭(手前)らと「都教委は上告しないように」と訴える加藤文也弁護士=2016年3月24日、東京・霞が関の東京高裁。(撮影/池添徳明)

女子生徒に「不適切なメール」を送ったとして、東京都教育委員会から懲戒免職処分とされた都立高校の男性教諭(34歳)が、処分の取り消しなどを求めた裁判の控訴審で、東京高裁(綿引万里子裁判長)は3月24日、「処分は裁量権を逸脱し濫用している」として処分を取り消した一審の東京地裁判決を支持し、都側の控訴を棄却した(処分背景や経緯は本誌2015年1月30日号、6月19日号、10月30日号などで詳報)。

高裁判決は、複雑な家庭で精神的に逃げ場のない生活を送っていた女子生徒の求めに応じたメールだと認定。「『わいせつなメールの送信』とは異質とも言えるほど悪質なものであるとまでは言えない」とした上で、家庭環境に恵まれない生徒の窮状を見かねての支援目的だったことや、女子生徒が現在も男性教諭に感謝していることについて繰り返し触れるなど、一審判決の事実認定を大幅に変更した。

男性教諭は、クラス担任の女子生徒に性的表現を含む「不適切なメール」845通を送信したとして、2014年7月14日付で懲戒免職処分とされた。教諭は、複雑な家庭環境で親から虐待されていた女子生徒の相談に乗り、高校生活を支えて励ますためのメールだったと一貫して主張。

これに対し都教委は、女子生徒が親から虐待を受けていた事実を把握せず、女子生徒から話も聞かずに一方的に男性教諭の懲戒免職処分を決めた。しかも教諭が不利になるように、事実に反する校長陳述書を都教委人事部職員課の相賀直・管理主事が捏造し、校長から裁判所に提出させた。校長はその後、「都教委の指示で不本意ながら虚偽の陳述書に署名捺印した」として新たな陳述書を裁判所に提出したことが、審理の中で明らかにされている。

【女子生徒は教諭に感謝】

判決は、男性教諭が女子生徒に送信したメールを詳細に検討。メールの大半は生徒からの問いかけに応じるもので、送信したメールの一部に性的な内容や恋愛感情を表現するものが含まれているが、多くは他愛のない会話や単なる挨拶、返事にとどまり、「わいせつなメールの送信」とまでは言えないと判断した。

さらに判決は、幼い弟たち二人の世話がおろそかになるのを理由に、高校で学ぶことを父親から否定されるなど、家庭環境に恵まれない女子生徒の窮状に男性教諭が心を痛め、メールのやり取りに応じていたことに言及。女子生徒が男性教諭の対応に救いを感じ、一貫して感謝の気持ちを抱いている事実を挙げ、「免職処分には女子生徒の気持ちがまったく配慮されていない」と述べた上で、「自己の欲求を満たすために女子生徒の窮状に乗じた不適切な行為」とする都教委の主張を退けた。

男性教諭は判決後、「当時の状況や背景が高裁判決に盛り込まれていたのでほっとしている。(都教委の主張だけを伝える)一部報道機関の一方的な報道によって精神的ダメージを受けたが、私よりも女子生徒が傷ついている。ぜひ事実を踏まえて正しく報道していただきたい。一審判決後に現場復帰したが、現在は事務方の仕事しかできていないので、一日も早く教壇に立って授業をして現場で教科指導をしたいと願っている」と話した。

代理人の加藤文也弁護士は、「生徒に向き合うこういう教師が処分されたらいい教育はできなくなる。女子生徒が家庭で虐待を受けていた背景や、教諭の熱心な対応に女子生徒が感謝し、校長も教諭の対応を評価していることに触れるなど、今回の判決は一審判決で不十分な部分を補充する形で、とてもていねいに事実認定している。都教委は今回の判断を受け止め上告しないでほしい」と述べ、高裁判決を高く評価した。

都教委は高裁判決について、中井敬三教育長のコメントを発表。「判決はまことに遺憾。今後、判決内容を詳細に確認し対応を検討する」としている。

教育行政の役割は、教師や生徒を傷つけることではないはずだ。

(池添徳明・ジャーナリスト、4月1日号)

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