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日本軍「慰安婦」被害者が来日し、「合意」を全面批判――被害当事者の声を無視

2016年2月17日10:36AM

一番右が李玉善さん。ひとりおいて姜日出さん。1月26日、東京・千代田区。(撮影/岡本有佳)

一番右が李玉善さん。ひとりおいて姜日出さん。1月26日、東京・千代田区。(撮影/岡本有佳)

日韓「合意」後初めて、当事者である日本軍「慰安婦」被害女性二人が韓国から来日した。「慰安婦」被害者が共同で暮らす「ナヌムの家」から来たのは、李玉善さん(88歳)と姜日出さん(87歳)。1月26日に衆議院第一議員会館で記者会見、同日と翌日に証言集会が開かれ、あわせて約400人が参加した。

「慰安所じゃない、死刑場だった」。李さんは数えの15歳で中国に連れていかれ、「一日40~50人も日本兵の性の相手をさせられた。抵抗すれば殴られ、刀で斬りつけられ、銃で殺されたり、あまりの苦しさに自ら命を断つ女性たちも多かった」。そこはまさに「死刑場」だったと語った。

今回最後だと思って来日したという二人は、日韓「合意」について「私たちを無視した『合意』は受け入れられない。まず被害者に会って、内容を説明してからするべきだ。ここまで来ても安倍首相は会おうとしない」(李さん)、「ほんものの謝罪はきちんと中身も含めてやるべき」(姜さん)と述べた。

記者からの「安倍首相が直接会って謝ったら受け入れるか」との質問に、「私ひとりの問題じゃない」と李さん。ナヌムの家の安信権所長は、「現在生きている46人だけでなく、亡くなった方や、訴え出ることができない方も含めて被害者である。日韓『合意』後の記者会見で、ハルモニたちは46人中ひとりでも受け入れないならナヌムの家の被害者は受け入れることができないと表明した」と説明した。「少女像」撤去について姜さんは、「撤去は私たちを殺すのと同じこと」と語った。

【朴裕河氏提訴の理由】

今回はもう一つ、朴裕河著『帝国の慰安婦』をめぐる一連の裁判について、原告側から初めて話を聞くことができた。原告とは、今回来日した二人を含むナヌムの家に暮らす9人の「慰安婦」被害者である。日本軍と「同志的な関係」、戦争の「協力者」、「自発的に行った売春婦」などという本書の記述について、2014年6月に(1)出版等禁止と被害者らとの接近禁止の仮処分(2)名誉毀損による損害賠償(民事)(3)名誉毀損(刑事)を提訴。その結果、15年2月、34カ所の記述削除の仮処分決定。同年11月、ソウル東部地方検察庁は、名誉毀損罪で被告を在宅起訴。16年1月13日、原告9人に対し合計9000万ウォン(約900万円)の支払いを命じる勝訴判決が出た(被告は控訴)。

ナヌムの家で15年余、被害者をケア、サポートしてきた安所長は裁判に至る過程を詳細に語った。

「刑事告訴についてはずいぶん悩んだ。しかし、被害者のハルモニたちは言ったんです。『私たちが生きているのに、私たちを見下したこんな本が出るんだから、もし死んでしまったらどう書かれることか。長年訴えてきたのに、しかも同じ韓国の女性がこんなことを書いていいのか』などと。それで法的にできることはすべてやろうと思った」という。「仮処分の裁判ではハルモニたちは体調がよくないのに4回の審議に交代で数人ずつ出た。でも朴さんは1回しか来なかった」。

日本ではあらゆる全国紙が在宅起訴を言論の自由への弾圧であると批判。知識人・文化人ら54人による朴氏起訴への抗議声明も出た。これらには被害当事者は不在で、被告側の声ばかりが目立つ。

「検察が国家権力を使い起訴したのではなく、ハルモニたちの権利である、裁判による請求権を行使して告訴し、それに応え検察が捜査したことを忘れてはならない」という安所長の指摘は重要だ。

「裁判係争中に日本語版も出版され、ハルモニたちはとても怒っていた」という。ちなみに、日本語版(朝日新聞出版刊)には、韓国語版から削除された34カ所の該当部分に類似の表現が散見される。

安所長は言う。「解決方法は一つ。彼女はハルモニたちのために書いたと言う。ならばハルモニたちが望まない本は廃棄すればいい」。

日韓「合意」も、『帝国の慰安婦』問題も、被害当事者の声、尊厳が無視されてはならない。

(岡本有佳・編集者、2月5日号)

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