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『21世紀の資本』著者トマ・ピケティ教授講演――「世界的累進資産課税は可能」

2015年2月16日6:31PM

東京・日仏会館で講演するトマ・ピケティ教授。(2015年1月30日、撮影/赤岩友香)

東京・日仏会館で講演するトマ・ピケティ教授。(2015年1月30日、撮影/赤岩友香)

資本主義経済が進むと格差は拡大しつづける――。欧米を中心に数百年の税務統計を分析し、格差拡大の解消への提言を行なったトマ・ピケティ教授(パリ経済学校)の『21世紀の資本』。世界各国で翻訳され、「ピケティ現象」を巻き起こしている。

そんな中、1月29日に来日したピケティ教授は30日、東京・日仏会館で「格差・税制・経済成長 『21世紀の資本』の射程を問う」と題する討論会を行なった。主催は(公財)日仏会館と日仏会館フランス事務所。

ピケティ教授は、欧米のデータを用いながら、「米国は1920年代よりも現在の方が富の集中が高い水準で、上位4%の人に集中している」と語った。80年代、「日本やドイツに抜かれるのではないか」という危機感を持ったレーガン政権が富裕層への所得税率を下げるなどしたことから、格差が拡大してきたと指摘。「レーガン政権の選択は正しくなかった。あまりに不平等だとイノベーション(変革)に役立たない」と批判した。欧州でも経済格差は拡大しているものの、米国ほどではなく、日本の格差は米国と欧州の中間ぐらいであると解説。また、資産の世襲の割合は米国よりも日本や欧州の方が高いと説明した。

経済学の橘木俊詔・京都大学名誉教授も、「先進国で貧困率が一番高いのは17%の米国で、日本は世界2番目の貧困大国。15%の人が貧困にあえいでいる不平等な国」だと述べた。「格差はお金だけでなくアイデンティティも失う」と述べたピケティ教授。格差拡大への解決策としてはさまざまな再分配の形があるが、ピケティ教授は累進税を強化し再分配を進めるべきだと主張した。

【安倍首相は導入に否定的】

また、橘木教授が「日本は福祉を家庭に押し付けてきたが、今後は北欧のような福祉国家を目指して消費税率を25~30%にしていくべきだと思うか」と質問したのに対し、ピケティ教授は「消費税率を上げることには反対」と回答。日本の税制については「高齢者と若い人の世代間のリバランス(再均衡)をすることが大切」「若い世代は相続資産がなければ、労働所得がなく賃金も上がらない。財産形成をすることができない」とした。

日本ではピケティ教授がアベノミクスを評価しているのか否かという議論がある。日本の格差社会の現場を取材しつづけ、『ピケティ入門』(小社刊)を執筆したジャーナリストの竹信三恵子さんは、「安倍首相やアベノミクス支持派はピケティが経済成長を否定しないことで評価されたと強弁しているが、その主張の重点は成長ではなく、成長の成果を再分配する仕組みの強化だ。焦点ずらしの曲解による世論誘導は不誠実」と語る。

『21世紀の資本』では、世界的に広がる経済格差を解消するため、富裕層への資産に対して国を超えた「世界的累進資産課税」の導入を提案している。この主張について、安倍晋三首相は1月28日、参議院本会議で「導入にあたって執行面で難しい」と述べた。討論会でも会場から、「『世界的累進資産課税』への導入は実現可能だと思うのか」という質問が上がったが、ピケティ教授は「実現可能」であると言い切り、「不動産には財産税がかけられているが、なぜ金融資産にはかけられないのか。税金は数百年以上前に導入されたが、当時の資産は不動産だった。それを変えてこなかった」と、世界的に金融の透明性を高めていくことが必要だと語った。

13年8月の『21世紀の資本』発刊以降、国内外で「資本主義経済」に関する議論が活発化している。この格差をいかに縮小していくかが、各国の首脳のみならず、私たちにも問われている。

(赤岩友香・編集部、2月6日号)

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