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朝日新聞社「報道と人権委員会」の見解に批判続出――「事実と推論を混同している」

2014年12月5日8:19PM

2011年3月15日の福島第一原子力発電所4号機。当日の事実究明が欠かせない。(提供/東電)

2011年3月15日の福島第一原子力発電所4号機。当日の事実究明が欠かせない。(提供/東電)

「結論ありきの茶番劇だ」――朝日新聞社「報道と人権委員会」(PRC)が11月12日にまとめた見解に批判の声が上がっている。

同見解は、東京電力(東電)福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書「吉田調書」をめぐって『朝日新聞』5月20日朝刊が報じた「所長命令に違反 原発撤退」などの記事に対して出された。PRCは「報道内容には重大な誤りがあった」とし、朝日新聞社が記事を取り消したことは「妥当」としたが、PRC見解には論点のすり替えや、「~ではないか」などの推論が多い。

原発事故情報公開弁護団は11月17日、参議院議員会館で記者会見を開き、PRC見解に強い疑問を表明した。海渡雄一弁護士は次のように分析する。

「吉田所長の福島第一原発構内待機指示は、テレビ会議を記録したメモに明確に記載されていますし、15日朝に東電本店の記者会見で配布された資料にも明記されていました。この時の会見で東電は、650人が福島第二原発へ移動していたにもかかわらず、この事実を隠し、退避した社員は1F(福島第一原発)近くに待機していると発表しています。650人の移動は所長の指示に明らかに反しており、東電は記者会見においてこの事実を隠蔽したのだと考えられます」

一方、PRC見解は〈吉田調書を検討すると、(1)吉田氏の指示は所員に的確に伝わっていなかったのではないか、そもそも「第一原発近辺にとどまれ」との指示を発した態様には問題があるのではないか、さらには(2)そうした指示が妥当であったのか、という疑問が生ずる〉とした。

この見解を前出の海渡弁護士は一蹴する。「客観的な資料と対比すれば、吉田所長の指示に曖昧さはない。PRC見解は推論に推論を重ねており、テレビ会議記録やメモなどの一次資料と矛盾しています。事実と推測を混同しているのは吉田調書報道ではなく、このPRC見解のほうだ」

PRCの初代委員、原寿雄さんはこう批判する。「PRCは、朝日新聞社幹部の予想通りの結論を出し期待に応えたと言えるのでしょう。第三者機関と名乗ってますが、放送倫理・番組向上機構(BPO)と違い、独立性が弱い。私が委員を務めた初期のPRCは『朝日』編集局幹部が司会を務め、同じ人物が結論をまとめていた」

【記事取り消しの背景に社内派閥抗争の影】

不思議なことがある。『朝日』が5月に吉田調書を報じてから、どのメディアもしばらく吉田調書を入手できなかった。しかし、「従軍慰安婦」検証報道や、同報道で謝罪しなかったことを批判した池上彰氏のコラム掲載を見合わせたことによって『朝日』批判が強まった後、つまり8月中旬以降になって『読売』『産経』などが吉田調書を入手して、『朝日』報道は誤報だと批判しはじめたのだ。『朝日』を叩く好機だと、首相官邸筋がリークしたとみられている。

17日の会見で、河合弘之弁護士は怒気を込めてこう語る。

「『朝日』の吉田調書報道を批判する人たちに『あなたたちは真実究明のためにどれだけの努力をしてきたのか』と問いたい。『朝日』記者が血のにじむような努力をして吉田調書を引きずり出したので、政府も公開したではないか。第一次資料からも誤報でないことは明白なのに、それすら検証せず上っ面の非難をする人はジャーナリストではない」

朝日新聞社は、なぜ記事を取り消したのか。原因は同社内の派閥抗争だ、との見方が根強い。「従軍慰安婦」検証記事や「池上コラム」問題で高まった木村伊量社長への批判を、木村社長の直接的な責任が問われない吉田調書報道の誤報扱いでそらそうとしたというのだ(本誌10月10日号の井上久男氏記事参照)。事実だとすれば、『朝日』上層部の腐敗は凄まじい。

朝日新聞社は関係者の処分を11月中にも決める予定だという。処分を誤ると『朝日』の信頼はさらに低下し、読者は離れるだろう。

(伊田浩之・編集部、11月21日号)

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